斎藤一明治夢物語 妻奉公

□50.一繋がりの
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「お前は相変わらずだな、人を引き寄せるようだ」

嫉妬深い言葉にならぬよう選んで出てきた言葉だった。

「人を・・・ですか」

「あぁ。今に始まった事じゃないが、昔から・・・最近新しく出会った者も多いんじゃないか」

「確かに何人かいますけど、どうかしたんですか」

薫に剣心、弥彦に左之助、出会ったのは重要な人物ばかりだ。
夢主はごくりと唾を飲み込んだ。

「そんなに身構えるな。来い」

「・・・」

腰を下ろした斎藤が両手を広げ、誘われるままに夢主は腕の中に小さく座った。

「すまん、どうこう言うつもりはないんだ」

斎藤に見えている町の歪み、黒い噂、そこに関わる人物。
夢主が以前気に掛けていた高荷恵と武田観柳、先日接触があった比留間兄弟、そして幕末に拐かし事件を起こした男も近頃事件を起こしている。

・・・抜刀斎・・・

声にしそうになり斎藤は口元を引き締めた。
政府がやっきになって探していた男。この男に全て繋がるのではないか。

抜刀斎が居座る神谷道場。度々町の破落戸に狙われている。そこの小娘とも夢主は関わりが深い。
全てを知ったうえで関わっているのではないか。
斎藤は眉根を下げる夢主を見て笑みをこぼした。

「フッ、何も問題はない。悪かった、余計なことを言って不安にさせたな」

「いいえ・・・」

「面白くなりそうだ」

「一さん・・・」

「何でもないさ」

夢主が巻き込まれないか不安に思う一方で、火種が早く弾けることを望む己もいる。
どちらの感情も嘘ではない。どちらも満たそうと願う俺は手前勝手な男だ。
斎藤は夢主を抱きかかえる腕に力を加えた。

「お前には迷惑を掛けるな」

「どうしたんですか、しおらしい一さんなんて珍しいです」

「フッ、しおらしいとは言ってくれる」

優しい瞳で気遣いの言葉をくれたと思えば見慣れた鋭い瞳で少し意地悪に聞こえる物言い。
夢主は恨めしそうに上目で斎藤を見つめて口を尖らせた。

「ついていけないです、私の気持ちが。・・・優しかったり意地悪だったり」

「ではどっちがいい」

「どっちって・・・」

優しくか、意地悪か・・・
んっ、と答えを待つ表情に耐え切れず夢主は赤い顔で俯いた。

「優しくて・・・意地悪な一さん・・・」

ククッ・・・
喉が鳴るのを聞いて顔を上げると、言葉通りの優しくて意地悪な口吸いに襲われた。
矛盾する二つの仕草に夢主は翻弄されていった。
 
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