斎藤一明治夢物語 妻奉公

□53.芽生えるもの ※R18
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「俺のこの目を好きと言ってくれるのもお前ぐらいだ。他人にどう思われようが気にせんが」

お前が気に入ってくれて嬉しいさ・・・
斎藤は己の瞳がよく見えるようにしたのか、夢主の顔に掛かった髪をそっと除けた。

瞳の色を確かめようと覗いてくるお前のあどけなさ、顔の近さに気付くと照れて逃げるくせに無警戒に近付く。
おかしな奴だ。

「今はどんな色だ」

「それは・・・綺麗な色をしています・・・とっても、綺麗な・・・」

漏れ入る月明かりだけの薄暗い部屋、鮮やかに見える色はないが、斎藤の瞳は強く美しい力を放っている。

・・・自分に厳しく、心も体を鍛え抜かれた人・・・

夢主はそっと手を伸ばした。
自分がされたように斎藤の前髪を除けてみる。
こんな時、どこか得意気に笑んで見えるのがこの人らしい・・・
手を離すと長い前髪はすぐに元の場所へ垂れた。

「大袈裟です一さん・・・私なんて、本当に待つしか出来なくて」

「それでいい、その存在が俺には重要なんだ。帰る場所があり笑顔や涙で迎えてくれるお前がいる。それが全てだ」

力の根源、さすがに大袈裟だろうか。
だが気持ちは本物だ。どんな過酷な状況も乗り越えられる力を与えてくれる、お前という存在。

「夢主・・・お前の最大の好い所はな、こんな俺に惚れてくれたことだ」

「そんな・・・」

「俺は果報者だ」

「一さんこそ、私なんかを受け入れてくれて・・・とても嬉しかったです。隣にいていい・・・それだけで幸せなのに、こんなに愛して下さっ・・・」

ハッとして夢主は赤い顔を俯けた。
自惚れた発言が恥ずかしい。
しかし斎藤は満たされた顔で夢主の頬に触れた。

触れた手に誘われて顔を上げると見えたのは幸せを感じている男の顔。
恥かしさで再び目を逸らしたくなるが、温かな視線から目を逸らせなかった。

「お前の言う通りだ夢主、愛している・・・お前を心から想っている、夢主」

「一さん・・・私もです、愛してます・・・こんなに愛おしいんです、一さんが・・・」

ほろほろと止まらない涙が夢主の強い感情を伝えていた。

ここまで好いた女に惚れられるとは男冥利に尽きる。
斎藤は目頭が熱くなるのを感じていた。記憶にある涙は一滴、負け戦の後に夢主を思い出した時だった。
男の涙などみっともない、不意にだろうが二度と流すまいと心に誓ったものだ。
不覚にも誓いを破りそうになった斎藤は自らを笑いながら一度だけ首を振った。

「夢主」

「一さん・・・っ」

引き上げた夢主の寝巻が再び滑り落ちた。
見えた白い肩を大きな手が掴み、小さな体は引き寄せられる。
逞しい腕に抱きしめられた夢主は黒いシャツに涙を擦り付けた。

力強い腕を感じながら、細腕で力いっぱい抱き返す。

・・・熱さが・・・温かい、一さんの・・・熱・・・

感じる熱い体。
二人の互いへの想いは何よりも穏やかで激しい。

言葉なく体が離れ、瞳と瞳が吸い寄せられるよう顔が近づき、気付けば唇が重なっていた。

口吸いをしながら尚も落ちる涙に気付いた斎藤は、優しく唇を求めながらその涙を指先で拭い去ってやった。
目を閉じる夢主は触れられてぴくりとするが、肌に触れた指先に感じたのは快さ。

涙を拭った指が首筋へ下りてゆき、気持ちのままに夢主の肌を愛撫してゆく。
いつしか二人の肌を隠すものは何も無くなり、直に触れて互いの温もりを感じていた。

擽ったさとむず痒さは心地よさで、次第に肌を求める熱と欲に変わっていく。
触れられるたびに漏れる吐息は甘い声に変わり、斎藤の熱を高めて刺激した。

「っんぁ・・・はじめ・・・さ・・・」

「夢主・・・」

夢主が切なく善がり声を響かせながら斎藤の名を呼ぶと、すぐさま優しく呼び返される。
余計な言葉は無くともよい、必死に求め応じる二人の間で存在を確かめるよう互いを呼ぶ声が幾度も繰り返された。

名を呼ぶ声と甘く湿った声だけが響く部屋、体が繋がりやがて荒い息と水音が加わる。
静かに始まった重なりが激しさを増し、部屋を支配する艶やかな息と音。
二人の時を壊すものは何もなく、柔らかな月の明かりだけが二人を見守っている。

何もかもが溶けてひとつになってしまう。
そんな錯覚に満たされた体、激しい快楽が芽ぐむ中、互いの全てを求めて与え合った。

赦しあう切なさと認めあう優しさが二人を強くする、不思議な感覚に包まれる。
昂る気持ちと感覚が二人を快楽の高みへ導き、限界へ達すると斎藤の熱い全てが夢主の中に注がれた。

二人の閉じた瞼が薄ら開き、目が合えばひとつになった嬉しさを感じる。
瞳の中に互いが映るほどそばにいる。
斎藤はゆっくり己の体を倒していった。
夢主の上に肌が吸い付くように重なれば、肌を通して重みが加わる。
大きな体を全身で感じる幸せの重み、快楽の名残で小さく跳ねる夢主の体を治めようとしているようだ。

「ひとつだけ覚えておけ」

「・・・はぃ」

体を乗せた斎藤の静かな声は夢主の耳に直接届く。
低い声に体の芯を抉られるような痺れが走り、繋がったままの斎藤のものを強く締め付けた。

「俺は相当なやきもち妬きだ」

「しって、ます・・・」

「ならこれ以上俺の嫉妬心を育むなよ」

「はぃ・・・」

ふふっ・・・、果てた直後の弱々しい微笑みに斎藤の眉根も下がる。
夢主に挿れたままの己が握られるように強く刺激され、嫌でも口角はニヤリと歪んでしまう。
覆うように体を乗せて抱きしめると、鋭い視界に入るのは乱れた艶髪と汗で湿る白い首筋、悦びで歪んだ己が悟られぬのは幸いだ。

少しの時を経て夢主の身震いが治まると、斎藤は再びゆっくりと熱を与え始めた。

拒むことなく繰り返される行為、身も心もより強い昂りまで昇り詰める。
斎藤の白濁とした熱が何度も夢主の中で放たれては愛液と混ざり溢れ出る。

静かに激しく続く夜。
部屋を照らす月の明かりが消えるまで二人の時は続いた。
 
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