斎藤一明治夢物語 妻奉公

□57.宿すもの、宿る者
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「あぁそうだわ、井上さんを呼ぶ前に一つ。いらないお世話かもしれないけど、どうしてもしたくなったらお腹に負担の掛からない体勢ですることね」

「どういうことですか」

「だからお腹の赤ちゃんが落ち着いて、夫婦の営みをしたくなったら後ろから突いてもらいなさい。四つん這いよ」

「なっ!何言ってるんですか!!」

夢主は目尻に涙を光らせたまま、真っ赤な声で叫んでいた。

「ふざけてるんじゃないのよ、れっきとした医者からの助言ですからね」

後ろから・・・
すぐさま想像してしまう自分がいる。耳元で斎藤の声が蘇るようで、夢主はふるふると首を振った。
好きだろう・・・
あの囁きだけで体がおかしくなってしまいそうだ。

ひとり火照る夢主を気にせず、恵は「井上さん」と廊下を覗いた。

沖田は診察室に戻るなり、耳まで染まった顔で涙を溜める夢主に驚いた。
それが嬉しい報せの所為だと知るやぽかんと口を開き、喜びで頬を色付かせた。

「夢主ちゃん、お腹に・・・赤ちゃ・・・」

「そうよ、二ヶ月目ね」

「あぁああおめでとうございます!夢主ちゃんおめでとう!!ついて来て欲しいって余程体の調子がおかしいのかと心配して・・・あぁっでもご懐妊だったんですね!本当におめでとう!」

「総司さん・・・ありがとうございます」

沖田は自分のことのように喜び、文字通り舞い上がっていた。
夢主の手を取って振り回したいが激しくしてはいけない、一人で跳ねて感情を爆発させている。

「あぁ夢主ちゃんが母親に!何て凄いんでしょう!信じられませんよ、夢主ちゃんに似た可愛い子なんだろうな!」

「ふふっ、総司さんてば」

斎藤さんに似ないといいですね、言ってしまいたいが恵には父親を秘密にしている。
今は言えないもどかしさを誤魔化す為、沖田は更に喜び飛び跳ねた。

恵は生活するうえで気を付けることや今まで通りで構わないことなど、様々な言葉を伝えた。
頼れる存在に夢主は不安が和らぐのが分かる。

「それじゃあまたね、定期的にいらっしゃいよ、体が辛いなら私を呼んでちょうだい」

「はい、ありがとうございます!」

「井上さん、しっかり支えてあげてね、旦那さんの分まで!」

「もちろんです、伯父になった気分ですよ。あははっ」

「本当にそうです、総司さんは親戚のおじさんです」

「おじさんかぁ、まぁいいや!あはははっ!あぁ今日は素敵な日です!」

皆には内緒なのだから外に出たらはしゃげない。
沖田はこれで最後とばかりに大声で喜んだ。

そんな姿を見て、夢主は斎藤に告げた時、どんな顔で喜んでくれるだろうと幸せを思い描いた。
まだ信じられない気分だが、確かにここにいる。
無意識にお腹に手を当てる自分がいた。

何も反応が無いと分かっていても温かなものを受け取るような不思議な感覚に包まれる。
怖さもあるけれど、皆に支えられてきっと無事に出産できるはず。ずっと昔から続いてきた命の営みなのだから、私にも出来るはず。
そんな勇気を得た気がした。

「さぁ、帰りましょう夢主ちゃん。ゆっくりね!」

「はいっ」

夢主は滲む嬉し涙を拭って微笑んだ。
 
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