斎藤一京都夢物語 妾奉公
□1.混乱の時代へ
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「だがなぁ、だから、分かりました!と外に出す訳にゃいかねぇ。俺達に詳し過ぎる」
この時代、顔の認識は重大な事だった。
面割りで罪人を裁けるからだ。それ故、改名するだけで逃げられる時代。
だからこそ反勢力に面が割れるとそれだけで不都合。
「それに、すぐ信用する訳にもいかねぇだろう」
土方は突然立ち上がり夢主を見下ろした。
「おい、女。立て」
夢主が戸惑いながら立ち上がると、土方は表情を変えずに続けた。
「体を調べろ」
・・・え・・・
夢主は体中の血の気が一気に引くのを感じた。
手足の力が抜け、今にも震えだしそうだ。
「詳しく調べるぜ。どこかの間者なら、それなりの何かが出てくるだろう。刺青があるかもしれねぇ。何も出てこなけりゃ、信用してやる」
・・・そんな・・・
夢主は衝撃のあまり声を失った。
「おい、女。脱げ」
「ちょっ・・・ちょっと待ってくださいよ!」
この無慈悲な命令に沖田が声を荒げた。
浪士組の為とはいえ、有無を言わさず服を脱がすなど女に対してあるまじき非道だ。
「総司は黙ってろ!いいから従うのか、しねぇのか。ぶった斬ってもいいんだぞ」
土方が足元に置かれた刀に目を落とし、夢主は言葉が本気であると悟った。
逃げられはしない、選ばなければならないのだ。刃か、取り調べか。
ならばと、夢主はか細い声で辛うじて願いを伝えた。
「あの・・・皆さんの、前で・・・ですか。・・・せめて、あの・・・」
出て行ける人には出て行って欲しい。
せめてもの願いだった。
「ちっ、分かったよ!おぃ、お前ら!!」
土方は願いを察すると舌打ちするも、皆に叫んだ。
「お前らちょっと出てろ。終わったら呼ぶから外で待ってろ。それでいいだろ!」
沖田は厳しい目で土方を見ている。
そして土方を見据えたままゆっくり立ち上がった。
「分かりました・・・でも礼儀を欠くような事をしたら、いくら土方さんでも許しませんよ」
「うるっせぇな!とっとと出ていけ!ほら!!」
他の男達も沖田につられるように順に立ち上がり動き出した。
・・・え、ちょっと待って・・・土方さんと二人きり・・・それは困る、困ります!
夢主は慌てて一番最後に出て行こうとした斎藤の袖を掴んだ。縋る思いだ。
斎藤が袖の違和感に振り返ると、夢主が必死に口をぱくつかせ何かを訴えている。
青ざめた涙目の女には同情するが、斎藤は目元を引き攣らせて、袖の手を静かに振り解いた。
すると夢主は土方を振り返り、意を決して叫んだ。
「ひ、土方さんと二人きりは嫌です!怖いです!お願いします!」
半泣きでそんな嘆願をされ、土方は苦虫を噛み潰したような顔をするしかなかった。
鬼と言ったが本当に俺は鬼なのか、女の言葉が棘となっていた。
「いい度胸してんな・・・分かったよ。おい」
土方は部屋に残っていた斎藤を静かに呼んだ。
既に外に出た男達もこちらを振り返っている。
「斎藤、お前も一緒に残れ。これでいいだろう。これ以上はもう何も聞かねぇぞ!!」
夢主は全身の力が抜けた。
・・・助かった・・・
何故かそう思った。
だが憧れの斎藤を前にこれから衣服を脱ぐのだ。
考えるだけで全身が熱を持ち始めた。