斎藤一京都夢物語 妾奉公

□4.妾奉公 ※R18
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宵の頃になると隊士が一人、晩ご飯を持ってやってきた。
部屋の外の気配に身構えるが、すぐに聞こえた温かい声が夢主の気を落ち着かせた。

「お腹が空いたでしょう。食べ終わったら、また外に出しておいてくれればいいよ。大変な事になってしまったけど・・・変な気を起こしちゃいかんよ、必ず好機がやってくる。それまで、踏ん張りなさい」

隊士は幹部の井上だった。
廊下に食事が乗った膳を置いて、励ましの言葉を残して去って行った。

「今のは源さん・・・優しい・・・本当、お父さんみたいな存在なんだ」

夢主はクスリと笑い、障子を開いて膳を中に引き入れた。

井上が来るまでは何も食べずに土方のもとへ行き、空腹で倒れてやろうかとも考えた。
事の最中に腹の音が鳴り続ければ、さすがに興が覚めて部屋から放り出されるかもしれないとも思った。

だが空腹には勝てない。
下らない意地を張った所であの土方だから何か仕掛けてくるに違いないと、素直に晩ご飯に手を伸ばした。
塩の効いた、おいしい握り飯だった。

「誰が握ってくれたのかな・・・やっぱり源さんかな」

考えながら微笑み、やがて食べ終えた。

外はすっかり暗くなっていた。
時が近付いている。

夢主はこの時代の感覚が分からなかった。いつごろ土方のもとへ赴けば良いのか分からない。
早すぎれば苦痛の時間が長引く。遅すぎても土方は怒るだろう。

外の様子を窺い、部屋の明かりが次々と消えるのを確認してから夢主はいよいよ部屋を出た。
こんな障子や襖でしか区切られていないのだ、周りに悟られないのは無理だろう。
それでも気休めに、夢主は皆が寝ている事を祈った。
 
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