斎藤一京都夢物語 妾奉公
□5.美味しいおにぎり
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剣には絶対の自信があるからか、そこには真剣さがあった。
真面目な瞳で話に興味を持っている。
「あの・・・多分、斎藤さんだと・・・」
「斎藤さんかぁ」
沖田は少し納得した様子で腕組みをした。
頭の中で斎藤と己の剣技を比べている。
「恐ろしいと書いて最恐の沖田、強いと書いて最強の斎藤・・・とか色々ありました」
「成る程。恐いもいいけど強いの方がいいなぁ」
沖田がしみじみ呟いた。
そんな姿を見ているうちにある事を訊ねたくなった。見聞きした物語の中でそうだったように、この現実でもそうなのか。
「あの・・・沖田さんと斎藤さんって、仲が・・・良いのですか?」
「ん?」
腕を組んだまま、おもむろに顔を上げた。
ずっと頭の中で斎藤との手合わせを反芻していた。
「斎藤さん?」
「はぃ・・・私が見る時はいつも一緒なので・・・巡察もご一緒って・・・」
「あぁ」
沖田はカラカラと笑いながら続けた。
「確かにね。斎藤さんとは剣の腕も同じ程だし、互いにいい稽古相手です。あれでいて真っ直ぐな人ですし。何で一緒に巡察に行きたいかは、知ってる?」
沖田が試すように言葉を切って夢主を覗き込んだ。
「・・・左利き・・・だからですか?」
「凄い!そんな事まで知ってるんですね!!」
沖田は驚嘆の声を上げた。
「斎藤さんの武器なんですよ、それ。何も知らない相手の右側に立って、油断している相手をばっさり斬っちゃうんです。普通右にいると斬れないから油断しちゃうんですよ。夢主さん本当に凄いね!」
ただただ感心している。
夢主には少し切ない話だ。
斎藤は本当にバッサバッサと人を斬ってしまうのか。人を斬るという現実が分からない。
「沖田さんと斎藤さんのお稽古、ちょっと見てみたいです」
それは本音だった。
剣客、新選組、斎藤と沖田に興味がある。
「いいですよ。今度、僕達の立ち合いを見るといいよ」
「本当ですか!ありがとうございますっ」
幕末の本物の剣客の立ち合いが、しかも憧れの斎藤と沖田が立ち会う場面を見られる。
夢主は誘いを喜んだ。
ふたりの和気あいあいとした雰囲気は、屯所の他の部屋にも伝わっていた。
「似合いの二人・・・か」
斎藤は一人の暗い部屋でぼそり呟いた。
何事も無く安心して眠れそうだ・・・
そう思いながらも、何やらすっきりしないものも感じていた。
結局二人はひとしきり喋った後、布団を夢主が使い、沖田は座り寝も雑魚寝も慣れている身だと言って脇の柱にもたれて眠る事になった。
布団が無ければ寝にくいと夢主は共寝でも良いと申し出たが、沖田は堪えられる自信が無く、それとなく断ったのだった。