斎藤一京都夢物語 妾奉公

□6.副長助勤方
1ページ/10ページ


翌朝、稽古の為に道着に着替えた沖田は夢主の寝顔を確認してから部屋を出た。
安らかな愛らしい寝顔に自然と微笑んでしまう。

「よぉ、ヒラメ男」

部屋を出た直後、その素敵な気分をぶち壊す一言が聞こえた。

「おはようございます、斎藤さん」

そこには同じく稽古着姿の斎藤がニヤニヤと口元を歪めて立っていた。

「嫌だなぁ、稀代の美青年剣士ですよ!美青年」

沖田は自ら言い直した。
言い直しながら、昨晩斎藤とは仲が良いと認めた自分を後悔した。
憎まれ口は斎藤の十八番。相手を揶揄するのはお互い様だが、口で勝った記憶がない。

「稀代とは言っていなかっただろう」

「斎藤さん、よく聞いてましたね・・・」

「フッ、耳はいい方なんでな」

斎藤は得意そうに鼻をならした。
二人きりの特別な時間を過ごした気でいたのにと、沖田は気を落とす。

「あぁあっ、斎藤さんの変な話を沢山聞いておくんだった!」

「やけに楽しそうだったが、一晩も何を話していた」

斎藤の言葉で全部は聞こえていなかったのかと沖田の顔が華やいだ。
実は沖田が一人で話し夢主が相槌を打つ場面が多かったのだが、それを伝える必要はなさそうだ。

「内緒ですよぉ。知りたければご自分で聞いて下さい。夢主ちゃんが教えてくれるとは限りませんがね」

一晩で夢主に対する呼び名が親しげに変わっている。
斎藤の眉がピクと動いた。

「随分と子供染みた呼び方だな」

「いぃじゃないですか!夢主ちゃんにぴったりの可愛い呼び名です!」

言い合っているうちに二人は道場に着いた。
中では既に稽古が始まっている。

「永倉さん・・・随分浮き足立っているけど、大丈夫かなぁ」

永倉の稽古の様子を見た沖田が心配そうに呟いた。
今夜は永倉の部屋を夢主が訪れる。

騒動のあった会議の後、土方が出て行ってから幹部連中である決め事をしていた。
部屋に招いても夢主に手は出さないと。
沖田は昨晩、それを守った事になる。

「斎藤さんも大丈夫ですかぁ、なんだかんだで信用ならないなぁ〜」

沖田は斎藤を一瞥した。

「フン。幸いと俺は女には困らないタチなんでな。安心しろ」

斎藤は沖田から目を逸らし道場の中に入って行った。
 
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ