斎藤一京都夢物語 妾奉公

□7.お盆の上の真実(まこと)
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夢主は土方から受け取った羽織りを熱心に直していた。

隊士の数を考えれば物凄く大量の直しが待っているかもしれない。
先を考えても切りがなく、目の前の一枚を綺麗に仕上げることに集中していた。

よれよれの羽織で土方も無造作に置いていったが、明らかに大切に扱われてきたと伝わる一枚。
人生の節目に仕立てたものか、家族や世話してくれた義兄が用意したのだろう。質は良さそうで厚みあるしっかりした生地で作られていた。

縫い物を始めると時間が経つのはあっという間だった。
斎藤が稽古から部屋に戻ってくる頃には、夢主はすっかり熱中していた。

「あ、斎藤さん!おかえりなさい、お疲れさまです」

にこにこと手を動かす姿に、斎藤も僅かだが顔が綻んだ。

「お前に縫い物が出来るとはな」

「私の時代にも縫い物仕事は沢山ありましたから・・・」

微笑んで手元の羽織をぐいと持ち上げ、直している箇所を見せた。

「酷く傷んでて、でも大事になさっていたみたいで。ここ、かけつぎっていうのをしているんです。穴が大きかったから・・・」

かけつぎとは、裏の見えない部分から共糸を取り出し、改めて糸で布を織るように傷んだ箇所を周りから共糸で埋めていく生地の直し技法。

「ほぉ、器用だな」

客観的に見てそう言えるほど、直しは上手く進んでいた。
感心した斎藤はおもむろに葛籠の前で屈み、蓋を開けた。
その背中に夢主は(まさか褌、あれだけ几帳面ならあるかも・・・)などと、有り得ない想像をして顔をしかめてしまった。
一方斎藤は葛籠の変化に気付いたが、敢えて気にせず目的の物を取り出した。

「これも一緒に頼む」

渡されたのは、なかなかに立派な袴だった。
折り目がしっかりと付き、色褪せや染み一つない袴。普段着には見えない。

「良いのですか、こんな立派なものを託されて・・・」

「あぁ、いいからやってみろ。少し引っ掛けてしまってな」

確かに糸が飛び出て大きく攣っている箇所がある。
見る限り直す場所はその一箇所だけ。

「分かりました・・・やってみますね」

笑顔で引き受ける夢主に、斎藤の口元にも笑みが浮かんだ。
 
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