斎藤一京都夢物語 妾奉公

□7.お盆の上の真実(まこと)
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夢主は斎藤が自分の為に用意してくれたおにぎりと茶が嬉しくて嬉しくて、台の前で腰を屈め盆を眺めていた。
盆を持とうとする斎藤の手が伸びて、慌てて顔を上げた。

「お盆、私が部屋までお持ちします!おにぎり、ありがとうございます」

申し出て盆を持つが、盆一杯に置かれた六つのおにぎりと二つの中身の入った湯呑は考える以上に重かった。
歩くと湯呑の中で茶が揺れ、慌てて溢すまいと盆を持ち直すと余計に揺れて更に溢れそうになる。

「ぁあっ・・・」

辛うじて溢さずに済んだが、見ている斎藤は気が気ではない。

「遠慮するな、慣れんのだろう。今日は俺が運んでやる」

「すみません・・・」

盆を運ぶことも出来ず、夢主は役に立たない自分を悔しんだ。


部屋に戻ると先程まで薄暗かった空はすっかり暗くなり、夜空に綺麗な月が浮かんでいる。

「あの・・・このまま、縁側で頂きませんか」

月空があまりに綺麗で、気付けば訊いていた。
斎藤は少し考えるように止まっている。

「はしたないでしょうか・・・ごめんなさい。お行儀も悪いですよね・・・」

「いや、いいだろう。ここで食うか」

そう言うと斎藤は部屋前の縁側に盆を置き、庭に向かって座ると足置き石に足を下ろした。

「ぁ、ありがとうございます」

・・・一緒にご飯が食べられて、斎藤さんのおにぎりが頂けて、同じ月が見られる・・・

夢主の顔が嬉しさで綻ぶ。

「ぁ・・・」

斎藤が座るさまを立って眺めていた夢主から声が漏れた。
何かに驚き、惹かれている。

「どうした」

「ぃえ・・・お嫌だったらごめんなさい・・・ただ、斎藤さんの瞳が・・・黄金色に・・・」

そう言うと少しだけ間を置いて隣に腰掛けた。
遠慮が生んだ少しの距離がかえって互いの目にそれぞれの姿を映す。
斎藤は無意識に、座った夢主の姿体を上から下まで確認してから目を合わせた。
視線が合った時、夢主はその黄金色の瞳に息を呑んだ。

「ぁあ、お前にもそう見えるか」

斎藤は夢主の言葉を受け入れ、フッと息を吐いた。

「陽の光の下では枯茶色だが、月明かりに当たると金色に・・・見える奴もいるらしい。たまに言われるな」

「お嫌ですか、・・・とても綺麗で・・・」

「いや、構わんさ」

斎藤がニッと笑うと夢主も微笑み返した。

「・・・茶ではなく酒にすればよかったな」

斎藤はニヤリとして呟いた。
 
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