斎藤一京都夢物語 妾奉公

□9.お留守番
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・・・おきた・・・さん・・・

薄れ行く沖田の姿、掴もうと手を伸ばすが、幾ら頑張っても届かない。
にこやかな笑顔のまま、遠くへ行ってしまう。

・・・薄らと・・・薄らと・・・消えていく。

・・・嫌だ・・・おきたさん、行かないで・・・

大丈夫だ、沖田君は強い


「はっ・・・!!」

力強い声と手の感触と共に目が覚めた。斎藤の部屋だった。

「よぉ、起きたかい」

布団から少し離れた場所で斎藤は片膝を立てて座っていた。
夢の中、触れたと思った手の感触は誰のものだったのだろうか。

「斎藤さん・・・おはようございます・・・」

夢主は青ざめた顔で挨拶をした。
嫌な夢だった。胸や背中に沢山の汗を掻いている。思い出すだけでまた汗が吹き出そうだ。

「随分うなされていたな。フッ、目が腫れてるぞ」

瞬きをすると腫れているのが分かる。
昨晩泣き腫らしたのだ。斎藤の胸で・・・。

「沖田君の事だが」

夢主は顔を上げた。
心は決まっている。

「私、出来る事はやってみようと思います。斎藤さん、力を貸してくれますか」

「あぁ」

斎藤は頷いた。

「失うには惜しい力だ。仲間としても、剣を向ける相手としてもな」

ニヤリと口角が上げる。
強い信頼があるからこそ出てくる言葉だ。

「飯は頼んでおくから落ち着くまで暫く部屋に籠もってるんだな」

夢主が目覚めるのを待っていたのか、斎藤はそう言うと立ち上がった。
腫れた瞼を見て口元を緩めている。

「言っておくが俺はもう握り飯は作らんぞ」

「えー、凄く美味しかったです!楽しみにしてたんですよー・・・」

「そう簡単にほいほいと作るか阿呆。そんなに期待してくれていたとは光栄だがな。またそのうちに、な」

フッと苦笑いし、チラと夢主の寝起き姿を見て続けた。
寝乱れて衿が緩んでいる。

「寝巻ももう届かんと思え」

「え」

「あの阿呆臭い決まり事も終わりだろう」

あぁ、夜の寝巻の添え事かと思い出した。
それが終わると言うのか。俄かに期待が膨らむ。

「昨晩遅くに近藤さんが戻った。これから幹部が集められて何やら伝達があるようだ。ま、お前が本物の未来人とやなら、分かっているのかもしれんが」

夢主はこれから起こるであろう出来事を幾つか思い返した。立て続けに大きな動きが続くはず。
変化に伴い自分の立場がどうなるのか、想像もつかない。

「屯所も慌しくなる。不用意に出歩くなよ」

「はぃ・・・」

面倒が御免なのだろうが、身を案じてくれているようで嬉しかった。
 
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