斎藤一京都夢物語 妾奉公

□9.お留守番
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二人は隊士達と共に帰ってきたのだが、微かに聞こえた雨の音に混じる夢主の楽しそうな微笑声に、慌てて理由をつけて駆けて来たのだ。

「お前は馬鹿か!そんな格好でふらふらと、しかも雨の中を!!」

共に部屋に入った斎藤も体を濡らしたまま、控えめにだが怒鳴りつけた。

「ごめんな・・・さぃ・・・」

雨による冷えと申し訳なさで夢主の体が微かに震えている。
しかし斎藤はやめなかった。

「大人しくしてろと言っただろ!そんな格好を晒して、男に見られたらどうなるか考えろ!」

「全く・・・風邪を引いちゃいますよ、夢主ちゃんたら。物凄くご機嫌だったみたいですけど、どうしたんですか」

沖田はもう怒ってはいないと告げる口調で優しく訊ねた。
雨に濡れ、肌に襦袢の生地が纏わりつき、細部までを晒している夢主の体を直視しないよう、真っ直ぐ目を見ている。

「あの・・・気持ちいぃかと・・・思って・・・ずっとお風呂に・・・入ってなかったので・・・」

ここ数日、手拭いを濡らして体を拭くだけの日々が続いた。
涼しい日は良いが、じめじめと暑い日もあったので一度すっきりしたかったのは本音だ。

「お風呂・・・ですか?」

「湯浴みがしたいと、そういう事か」

ただの言い訳ではなさそうな言い草に、斎藤と沖田はやれやれと顔を見合わせた。

「なんとか取り計らいますから・・・もうこんな事はしないでくださいねっ」

揶揄うように明るく戒めた沖田、自らの体を拭きに部屋へ戻る事にした。
体を入り口に向けようとしたその時、迂闊にも夢主の艶めかしい立ち姿に目をやってしまった。

「っ!また、後でっ」

顔を赤らめながらも見ていないふりをし、顔を背けて出て行った。
その姿を斎藤は黙ったまま苦笑いし、己も着替えるため衝立の裏に回った。
そこにある葛篭から手拭い数枚、夢主に投げた。

「これで拭け。俺も向こうを向くから、お前もあっちを向いて替えのものに着替えろ」

「はぃ・・・ありがとうございます。その・・・お部屋濡らしちゃって・・・ごめんなさぃ」

潤んだ涙声で言い、夢主は体の向きを変えた。
恥ずかしさよりも申し訳なさで顔が真っ赤になっていた。

「・・・構わんさ。後始末は頼むがな」

意地悪く言うと、斎藤は夢主より遅れて体の向きを変えた。
美しい白い背中をしっかり目におさめてから、フッと笑んで着替えを始めた。
 
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