斎藤一京都夢物語 妾奉公

□10.誕生、新選組
1ページ/7ページ


「あぁ?風呂だぁ?!」

帰屯して落ち着いた斎藤はさっそく土方に進言した。
夢主の希望、湯浴みが出来るよう計らって欲しいと。

「んなもんはぁ、その辺の湯桶にでも浸かってりゃぁいいだろ!」

「土方さん」

それは流石に無理ってもんです。隊士用に置かれた湯桶は皆から丸見えの状態だ。
斎藤は無表情で眉間に皺を寄せた。

「ちっ、わぁーったよぉ。全く面倒くせぇこと言いやがる」

結局、一度人の少ない時を狙って前川邸の湯船を借り、その後は外の湯屋に連れ出してやる事に決まった。
さっそくその夜、夢主は風呂場に案内された。

「あの、お計らいくださって本当にありがとうございます」

「僕達じゃありませんよ、土方さんが掛け合ってくれたんです。こういうのはやっぱり土方さんですね、悔しいけど」

にこっと笑う沖田、ぶつかりはしても土方には一目置いている。
沖田にとって頼りになる兄貴分なのは間違いない。

「僕達は外で馬鹿な隊士が来ないか見張ってますからね、安心して入ってください」

「ぁはは・・・沖田さん、穏便に・・・た、頼もしいです。宜しくお願いします」

笑顔のままチャキリと手にある刀を鳴らす、本気とも冗談ともつかない言葉。戸惑いながらも頭を下げた。
夢主が中に入り、残された二人は入り口に並んだ。
刀を持つこの二人を見て、覗きを働こうという命知らずはいないだろう。

「ねぇ、斎藤さん。やっぱり土方さんは分かってますよね」

「何がだ」

沖田は嬉しそうに斎藤を横目に見た。斎藤も横目で答える。
にやにや笑うなと睨んだ後、腕組みをして壁にもたれた。

「僕と斎藤さん、一緒に見張りを名指しした事ですよ。だって斎藤さんはむっつり助平だから、ここは一人じゃ不味いって、ちゃ〜んと分かっていたんですねぇ」

「フン。くだらん」

沖田は嬉しそうに一人うんうん頷いている。
斎藤が相手にするのも馬鹿らしく感じ、前を見たまま答えると、珍しく沖田が顔を覗いてにやりと笑った。

「斎藤さん一人だったら、そこは絶対に覗くでしょう」

「沖田君、君は喧嘩を売っているのかい」

喋りがしつこい。
斎藤は腕組みを解いてこれ見よがしにポキポキと拳を鳴らした。

「やだなー忘れちゃったんですか。この前、私の闘争を許さずって、土方さんが小難しい禁止令出したばっかりじゃないですか、あははっ」

「だったらこんな面倒な仕事は沖田君、君一人でやってくれて構わんぞ」

「え、いいんですか?僕は喜んでお引き受けしますよ」

斎藤は場を離れようと壁から背を浮かせたが、あまりに純粋に目を輝かせて沖田が言うので思い留まった。

「沖田君の場合は一緒に入るとか言い出しそうだな。フッ、土方さんにどつかれるのは困るからな、最後まで付き合うさ」

沖田は残念そうに笑って見せた。

ちょうどその時、中からザバ・・・と湯をかける音が聞こえた。夢主が着物を脱ぎ終え中に入ったのだ。かけ湯の音が続く。
二人の会話は聞こえた訳ではないだろうが、クスっと愛らしい笑い声が漏れ聞こえた。
斎藤と沖田は思わず話すの止め、顔を見合わせた。
 
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ