斎藤一京都夢物語 妾奉公

□10.誕生、新選組
7ページ/7ページ


中の話は聞こえていたが、二人は敢えて素知らぬ顔で後を追った。

「もぅっ!もうっ!!いつか必ず仕返ししてやるんですっっ!!土方さん、覚えていて下さいっ!!」

「夢主ちゃん、怒ってますねぇ〜。でもそんな見え見えじゃあ土方さんは引っ掛からないですよ〜あはは。僕、協力してあげてもいいですよ。最も、策を練るのは僕の苦手ですけどね!」

沖田は冗談で言ったが、それでも夢主は半ば本気で斎藤を見た。

「フッ。悪いが俺は隊務に忠実なんでな。お前の面白そうな策略には乗ってやれんよ」

フン!と不満で拗ねるように顔を背ける姿を、斎藤は声を殺して笑った。

「もぅ!もぅ!いいんです、一人でも絶対にやり遂げてみせるんですから!未来の女を舐めたらいけないんですから!」

珍しく声を荒げて怒る夢主だったが、斎藤と沖田が急に静かになったので、ふと振り返った。

「嫌われたもんだな。言い忘れた事があったんだがな」

「ひぃ、ひっじかたさん!!」

夢主の背後、二人の前に土方が立っていた。
いつも現れる間が悪い、夢主は思った。

「部屋だが、幹部連中には言ってあるんだが、このまま斎藤の部屋にいてくれ。斎藤、すまねぇな」

斎藤を見てスマンと軽く会釈すると「それで、例のあれはもう無しだ」とさらりと続けた。
例のあれ・・・自分の命じた辱めの仕事を濁して言った。

「これからは得意の縫い物とか、部屋で出来る細々した事を頼むぜ」

土方は平隊士と芹沢たちを警戒し、夢主をなるべく部屋に入れておきたかった。

「それから夢主、俺を陥れるのはいいが、・・・・・・上手くやれよ。ククッ」

またもや夢主の耳元に寄ると笑いを噛み殺して囁き、そのまま去って行った。

「うーーーー悔しぃぃいい!!」

耳元で聞かされた声に体を震わしてしまい、夢主は赤い耳と涙目で叫んだ。


その頃、隣の八木邸では昼間から酔う芹沢の傍らにお梅がいた。

「そぅいえば芹沢はぁん、なんやら向こうの家には、かいらしぃ迷い猫がいてはるみたぃやすなぁ」

「あぁ?迷い猫ぉ??なんだそりゃぁ・・・猫より、美味ぃ酒だぁ酒!!」

泥酔状態で心ここにあらずの芹沢は、お梅の話に適当な返事をして済ませた。

「はぃはぁい、困ったお人どすなぁ、ふふふ」

お梅の膝に転がりニタニタと笑いながら浅い眠りの中にいた。


この頃、新選組は主に京の市中見廻りと共に長州残党の過激派浪士の取り締まりに励んでいた。
その長州浪士、後に維新志士と呼ばれる彼らの陰で動く、ひとりの人斬りの姿がある。

「おぃ、聞いたか、最近幕府側の人間ばかり斬ってる輩がいるってよぉ」

「あぁ、赤い髪の小柄な男だとか。抜刀術の得意な人斬りらしいな・・・」

彼らはまだ人斬り抜刀斎、緋村剣心の名を知らなかった。
 
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ