斎藤一京都夢物語 妾奉公

□18.湯屋時
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「でも土方さん、本当にずるいな〜〜!!」

沖田が早速笑いながら揶揄った。

「夢主ちゃんを連れ出す時は、幹部二名以上って決めたのは、土方さんじゃないですか!」

「フン、だからお前ぇらがいるじゃねぇかよ!!幹部三人、これで文句はねぇだろう!あぁ?!」

土方は得意そうに鼻をならした。
そういう事だ。
この時間、一番隊と三番隊がこの付近を巡察していると目星が付いていたのだ。
別々に巡察していても姿を見つけたら合流し、こそこそついて来るだろうとも考えた。

「新選組の副長たる者、各隊の巡察地域くらい頭に入ってんだよ!!だいたいの見当はついてんだ!」

夢主にはどこまでが土方の思惑なのかは分からなかった。
もしかしたら最初から最後まで、屯所を出る所からずっと土方の筋書き通りだったのかもしれない。

・・・でも、さっきの土方さんの言葉と、優しい表情はきっと本物なんだ・・・

夢主は土方の二の腕辺りを掴むと、ぐぃと顏を引き寄せた。
察した土方は夢主に身を任せ、少し体勢を崩しながら耳を寄せてくれた。

「土方さん、もしお互い生きて平和な新時代を迎えられたら、その時は、お相手・・・してもいいですよ」

くすくすと、斎藤達にも聞こえないくらいの小声で伝えた。
夢主の望み通り、隊士達が騒がしいので斎藤と沖田の耳には届かなかった。

「おぃ・・・本気か・・・」

土方が固まったまま呟いた。
夢主ははにかんで、こくりと大きく頷いた。

「無事に新しい世界を築けたら・・・ですよ!絶対に死なないでくださいね!!」

土方の希望になってくれればそれでいい、いつの日か、生きる力になってくれれば。
その思いだけで夢主は土方に嘘をついた。

「よぉーーーし!!てめぇら!!このままもういっちょ巡察すんぞぉ!!」

「えっ、ちょっ、夢主ちゃんを屯所に戻してあげないと!!!」

急に昂ぶってはしゃぎだす土方を沖田が宥めた。
立場がいつもと逆、なんとも珍しい光景に隊士達も大笑いだ。
斎藤も微笑ながら土方を笑い、夢主の傍に寄り添った。

「行くか」

「はいっ」

すっかり陽が沈んだ京の町を、夢主は新選組の男達と歩き出した。
 
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