斎藤一京都夢物語 妾奉公

□13.血の臭い
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手首を掴まれ無理やり連れて行かれた事、乱暴されそうになった事、お梅に助けられた事。
それから、誰かに話せば近藤派の幹部皆の首を刎ねると脅された事を告げた。

「安心しろ、俺達は芹沢に首を取られたりはしない。辛かったな」

そう言って震える夢主の両手を握りしめた。
他意はなく、震えを止めてやろうと思ったのだ。

「っ・・・」

驚いて恥じらいで頬を染めるが、不意に左肩に痛みが走り、赤い顔を痛みで歪めた。

「どうした」

斎藤は驚き、夢主が意識した肩に目をやった。

「肩か・・・見るぞ」

短く告げ、斎藤は夢主の着物をゆっくり崩し、白い小さな左肩を自らの目に晒した。
先日、雨に濡れた後に見た美しく傷一つなかった体。その体に真新しい痣が浮かんでいた。

「っ、これは」

鉄扇で叩かれた後がしっかりと赤く痣となり残っている。

「叩かれたのか」

夢主は黙って頷いた。
斎藤の中に得も言われぬ怒りが沸き起こる。

「ごめんなさい・・・こんな事になっちゃって・・・」

何の落ち度も無い夢主が謝罪の言葉を述べると、斎藤の怒りは更に増した。
それを抑え、斎藤は己の荷物の中から薬を取り出した。

「打ち身の薬だ。痛むかも知れんが我慢しろ」

斎藤は蓋を開け、晒された細い肩に薬を塗り始めた。

斎藤の手はすらりと長い指の美しさと、男らしい骨っぽさを持ち合わせている。
そんな手に滑らかな薬を塗られ、夢主は少しくすぐったい気持ちになっていった。

「ありがとうございます・・・」

恥ずかしくて顔は見られないが、優しく見つめてくれているのを感じる。
薬の効果だけではないのだろう、痛みが和らいでいくようだった。
気を緩めると、涙が一雫零れた。

「阿呆ぅが、安心しろ」

「っ、はぃ・・・はぃ」

薬を塗り終えると華奢な赤い肩に触れぬよう、斎藤は片方の手で夢主を抱き寄せた。
もう泣く必要はないと教えてくれる温かさに、夢主の涙は止まらなかった。
 
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