斎藤一京都夢物語 妾奉公

□41.嫉妬
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闇に染まった京、隊列の先頭を行く沖田は隣に並ぶ斎藤に、二人にしか聞こえない声で話し掛けた。
前を向いたまま、会話をしているとさえ悟られない声だ。

「ねぇ斎藤さん、夢主ちゃんこっそり見送ってましたね」

「あぁ」

寝巻姿で顔を出して覗く夢主、目が合った沖田はしっかりその姿を確認していた。
少し不安げに、でも自分達にどこか憧れているような眼差し。
安心して待っていて、そんな想いで見つめ返すと何故か目を逸らされた。

「心配してくれてるんでしょうか、夢主ちゃん優しいから」

「かもしれんな」

斎藤も前を向いたまま短く返事を繰り返した。

「寝巻で座って覗く夢主ちゃんは何とも愛らしいですね。ちょこんとしているというか。僕、あの時、斎藤さんの部屋まで挨拶に行きたくなっちゃいましたよ」

「阿呆が」

「昨日、僕がいる間に夢主ちゃん目覚めなかったから、縁が無いんだなぁと諦めましたが、今日もう一度試みたら良かったなぁ。あんな姿見たら、そう思っちゃいました」

「フン」

沖田の戯言に返事をするのも面倒臭いと、斎藤は鼻で笑った。

「夢主ちゃん、僕はそんな事しないと思ってるみたいだから、ちょっと驚かせてあげたいですね」

沖田の悪戯な言葉に斎藤は反応し、歩きながら横目で軽く睨んだ。

「ふふっ、怒ってるんですか。そんな斎藤さんだって夢主ちゃんに抱きついた事があるんでしょう。今日聞いちゃいましたよ」

「っ、ちっ」

夢主のやつ余計な事を、と斎藤は舌打ちをした。

「夢主ちゃんを責めるなんて筋違いですよぉ〜。そもそも僕が無理矢理、聞き出したんですから怒らないで下くださいね。それにしても意外ですねぇ」

そう言うと沖田もちらりと斎藤を一瞥した。
棘をたっぷり含んだ視線を送り、わざとらしい声色で続けた。

「まさか、斎藤さんがね」

「黙れ。あれは事故みたいもんだ」

斎藤も夢主と似たような言い訳をした。
それでも明らかに苛立っているのが分かる。

「事故ってどんな事故だったんですか、いつですか、それからどうなったんですか」

次々と質問する沖田だが斎藤は無視して前を見据え、急に刀の鯉口を切った。

「沖田君はうるさいな。どのみち、その話は今は無しだ。現れたぞ」

「おや、本当ですね、いつの間に。ははっ、やられたなぁ」

沖田はあっけらかんと笑い、すらりと刀を抜いた。
すっかり話に夢中になり、警戒を周りに任せ全く前方を意識していなかった。
気付くと離れた場所で不逞浪士の集まりがこちらに刀を向け構えている。

「まぁいいですよ。ね、斎藤さん。ちょうど苛々していた所ですから・・・」

「あぁ。全く同感だ」

斎藤も抜刀し、切っ先を相手に向けて腰を落とした。

「行くぞ!!」

斎藤の言葉と共に沖田を始め、新選組の隊士達が不逞浪士の群れに飛び込んだ。
入り乱れて剣を振るう隊士達と浪士達だが、自分が全て討ち取るといわんばかりの斎藤と沖田の気迫に押され、隊士達の勢いが弱まった。

その動揺に浪士達もつられて動きが鈍る。
斎藤と沖田の刀に次々と斬り捨てられていった。
あっという間に辺りは血の海となり、新選組の隊服以外、その場に立つ者はいなくなった。

「フン、呆気ないな」

「えぇ、本当に。でもこれで話の続きが出来ますよ」

「ちっ、面倒だな君は」

斎藤は刀の血を振り払い、懐紙で拭き取りながら沖田に吐き捨てた。

物のついでのように浪士達を幾人も簡単に斬り捨てた斎藤と沖田に、従う平隊士達は刀を持ったまま立ち竦んでいた。
とてつもない気迫と剣技、自分達が立ち入る隙が全くなかった。頼もしくも恐ろしい二人の幹部。

狼が二匹、ただ戯れに遊んだ後のように、二人は何事も無かったかのように再び夜の京を歩き出した。
 
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