斎藤一京都夢物語 妾奉公

□43.いけない事
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「土方さ〜ん、いますかー」

「なんだ総司」

屯所に戻ると沖田はさっそく預かった小枝を土方に届けた。

「はい、これ。夢主ちゃんからですよ」

「梅・・・あいつから?」

手渡された小枝に付いた梅の花を確認して呟いた。
前回の梅同様、愛らしい花が並んでいる。

「・・・あの野郎・・・」

「土方さん、夢主ちゃんに何か言ったんですか?」

先程の夢主の様子と土方の呟きに疑問を感じた沖田は、胡坐を掻く土方に近付き、顔を覗き込んだ。

「ぁあ?何でもねぇよ。夢主に渡したい物があるんなら直接持って来いと伝えておけ」

先日夢主が手渡した時に土方が断ったのかと思ったが、違うようだ。
持って来いと、寧ろ歓迎して見える。

「・・・いぃんですか・・・土方さん・・・」

「あぁ構わねぇよ、って総司お前、夢主の真似して言うのやめろ!言い方も表情も妙に似てやがるから、腹が立つ」

「あはははっ、分かりましたかっ!」

沖田が見せた夢主の真似がとても似ており、土方は嫌がって眉間に皺を寄せた。

「でもいぃじゃないですか〜っ。夢主ちゃん、こういう表情よくするでしょう、似てました?可愛いですよねー」

「だからって、テメぇがするんじゃねぇよ総司!気持ち悪ぃだろうが!!」

夢主に言われた訳でもないのに土方は照れていた。
そんな自分にも苛々した。

「ははっ、心外だな〜〜!!でも可愛いって言うのは認めるんですねー!あはははっ」

「ちっ、どうでもいいから、ちゃんと言っとけよ!」

沖田の冗談にうんざりとばかりに、手を「しっしっ」と振って部屋から追い出そうとした。

「自分で夢主ちゃんに言ったらいいのに〜〜」

「俺はなぁ、お前と違って忙しいんでぃ!!」

土方は膝の上に置いた手に力をぐっと入れ、沖田に向かって身を乗り出して威嚇した。

「はいはぁ〜〜い!」

これ以上いると土方の本気の雷が落ちると感じて、沖田は手をひらひら振って笑いながら去って行った。

その頃、梅の小枝を託した夢主は斎藤と共に沖田が戻るのを待っていた。

「斎藤さんは梅と桜・・・どちらがお好きですか」

「梅と桜か。そうだな、そういうお前はどっちなんだ」

不意に訊ねた夢主だが、斎藤に質問を返されてしまった。
暖かい季節がくる前に愛らしく現れる梅か、春になり姿を見せる可憐な桜か。

「うぅ〜〜ん・・・難しいですね・・・どちらも可愛いし、季節が違って良かったなぁって思います、ふふっ」

選べずに答えを濁して微笑んだ。
そんな姿を見て、斎藤もそうだろうとゆっくり頷いた。

「そういう事だ。無理に比べる必要はないのさ」

「そうですね、沖田さんとお団子食べに行くのはとっても楽しいですけど、斎藤さんとお団子食べに行って、渋い顔されてる斎藤さんを見るのも楽しいですもんね」

「フンッ、言うようになったじゃないか」

「ふふっ」

夢主が笑うと斎藤もニヤリと口角を上げた。
沖田が戻るまでの僅かな時間だが、ふたり他愛無い冗談を言って笑い合った。

「新年から大坂の事で色々とあったがもう落ち着いた。少しは時間も出来るだろうよ」

「ほ・・・本当ですか」

「あぁ」

嬉しいか?とばかりに得意げに言う斎藤に、夢主も素直に目を細めて喜んだ。
各方面への大坂出張に関する報告も終わり、斎藤の個人的な仕事も落ち着いたのだろう。

夢主の指には、甘酸っぱい梅の香りが残っていた。
 
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