斎藤一京都夢物語 妾奉公

□49.池田屋事件
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沖田の言葉に従い部屋へ戻るが、斎藤の姿は無かった。

屯所内も落ち着かない。
暫く部屋で大人しく過ごしていると、着流し姿で斎藤が戻ってきた。
汚れた袴や着物を脱いで体も清めてきたのか。

「お帰りなさい」

「あぁ、戻った」

横目で夢主を見る斎藤は、屯所に戻った時と同じく口元に薄っすらと笑みを浮かべたままであった。

「何か・・・良い事でもあったのですか・・・」

歴史に名を残す激しい捕縛劇が斎藤には興奮すべき出来事だったのか。
夢主は斎藤の顔を覗くように見上げた。

「良い事か、確かにあったな。池田屋からの帰り道、いい物を見つけたぜ。赤い髪の男、あれが人斬り抜刀斎・・・いい眼をしていたな、あいつ俺を見つけやがったぜ、ククッ」

喉を鳴らして笑う斎藤は夢主ではないどこかを見つめて呟いた。
帰りの道中、市中で斎藤と緋村が視線を交わした。夢主はそんな光景があった事を思い出し、斎藤の薄ら笑いを見つめた。

「斎藤さん・・・良かったですね」

あまりに嬉しそうに顔を歪める斎藤に、そう返すしかなかった。
斎藤は昨夜屯所を出る時とは全く違う顔付きをしている。

「あぁ、いい夜だったよ」

そう言うと斎藤はおもむろに横たわった。

「悪いが朝飯まで休むぜ、お前は好きにしていろ」

「は、はぃっ・・・」

仮眠の邪魔にならぬよう、夢主は音もなく衝立の向こうへ回った。

目を閉じた顔をそっと覗くと、いつもと変わらぬ静かな寝顔に見える。
おさまらぬ喧騒を余所に、斎藤はあっという間に眠りに落ちた。

斎藤はきっと緋村の姿を確認して、彼の底知れぬ剣の実力を感じ取ったのだ。
その興奮が冷めないうちに帰屯したのだ。

・・・きっと今頃、剣心は巴さんと過ごしているはず・・・遊撃剣士として表に出るのは、巴さんを失ってから・・・つまり冬が過ぎてから・・・

夢主は記憶を辿り、斎藤が待ち望む戦いが今暫く訪れない事を考えた。

抜刀斎との戦いが訪れなければ、斎藤の気の昂ぶりも収まるだろうか。
そしてその時が来れば、どうなってしまうのだろう。

夢主は今は静穏な斎藤の寝顔を眺めて思うのだった。
 
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