斎藤一京都夢物語 妾奉公

□52.仕置きと罰
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「ごめんなさい・・・」

「ちっ、しょうがねぇなぁ・・・ほら」

土方は夢主の頬をそっと触れた。

「真っ赤じゃねぇか」

「っ!!」

夢主は慌てて退き、土方の手から逃げると、恨めしげに見上げた。
土方は頭に手をやりながら、言い出しにくそうに言葉を繋いだ。

「だったらよ・・・斎藤を余り責めるなよ、恋仲じゃぁ、ねぇんだろう」

「っ・・・・・・はぃ・・・」

恋仲でないのなら、相手の行動に口を出す権利すら無い。
それは自分のやきもちと我が儘・・・夢主は俯いた。

「勘違いするなよ、俺はいいと思ってるんだぜ。だがよ、お前が誰かのものならば、いっそと諦めがつくって男も多いんだよ、ここにはな」

「ぇ・・・どういう・・・」

「分からねぇうちは、いいんだ」

そう言って土方はフッと笑った。二人は斎藤の部屋に向かった。

斎藤の部屋に着いて土方が声を掛けると、今度は斎藤が中から障子を開けた。
その姿が目に入るなり夢主は土方を追い越して進み、斎藤に謝ろう口を開いた。

「あのっ、斎藤さんっ」

「謝るんじゃねぇ」

夢主の行動を読んだ土方が割って入る。
強い口調と相手を圧する気を放っていた。

「お前が謝る事はねぇ。今回の一件、悪いのはお前だ、斎藤」

夢主の前に立つ無言の斎藤に、土方も体を寄せた。

「えっ、でも今っ・・・そっ、その、土方さん、私が・・・」

「お前は黙ってろ」

暫く土方を見ていた斎藤だが、目を伏せて小さく息を吐くと口を開いた。

「申し訳ありませんでした、副長。それから・・・夢主、すまなかったな」

首を傾げるように僅かに頭を下げる斎藤を夢主は驚いて見つめた。

「さ、斎藤さん・・・そんな」

自分の下らない嫉妬心と我が儘のせいで懲罰を受け、減給にまでなるのに、何故謝るのが斎藤なのかと戸惑った。

「私のせいでご迷惑を・・・減給まで・・・」

「減給っ」

その話は聞いていないと思わず土方の顔を確認する斎藤に、土方はニヤと嬉しそうに口角を上げた。

「太夫の揚げ代はお前の給金から出すからな、当然だ」

不満そうに眉をしかめる斎藤を土方は満足そうに笑って体の向きを変えた。
ここまで用が済めば俺はもういらねぇだろと、気持ちを切り替えている。

「じゃぁ後は上手くやれよ、お三方。夜も遅いんだ、早く寝ろ」

「あっ、ありがとうございました・・・土方さん・・・」

歩き出した土方に頭を下げると、土方は少し振り返って笑みを残し去って行った。


「まぁ・・・二人とも中に入りましょうよ。詳しいお話、聞きたいな」

沖田は土方の背中を見てぼうっと立つ夢主と、その横でたたずむ斎藤に声を掛けた。

夢主は改めて二人を見ると、気まずさが込み上げてきた。
にこやかに座って夢主を見上げる沖田、すぐ目の前で夢主を見ている斎藤。

「斎藤さん・・・」

斎藤と目が合うと、思わず顔が熱くなってしまう。
朝、飛び出す前に一緒に過ごしたはずなのに、もう何日もその瞳を見ていなかったのではと感じる程、久しぶりの感覚に思えた。

斎藤が自分を見ている。
久しぶりにそんな実感を得た。

よく晴れた夜の月明かりで、澄んだ黄金色に変わった斎藤の瞳。
こんなに間近で曇りなく真っ直ぐ自分を見つめてくれるのはいつ以来なのか、斎藤の瞳に捕らえられたまま思いを巡らせた。
硬直した体で、正気の色を持つ優しい瞳を見つめ返していた。

「やれやれ、話せるか」

「はっ、はぃっ!」

「夜も遅い、辛ければ朝でも構わんぞ」

「い、いぇっ、大丈夫ですっ」

固まっている夢主に優しく話しかける斎藤、夢主は我に返って慌てて返事をした。

「はははっ、良かった。夢主ちゃん、いつも通りだね」

火照った赤い顔で慌てる夢主を見て沖田も優しく笑い「さぁ」と、もう一度部屋の中へと促した。
斎藤を見上げれば沖田と同じく中に入るよう頷いて促され、夢主は気持ちを決めて部屋の中へ入った。

月明かりを遮って、部屋の戸は閉められた。
 
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