斎藤一京都夢物語 妾奉公

□63.伊東甲子太郎
7ページ/7ページ


「腕が立つのは確かなようですし、藤堂君は伊東さん達が京に向かうにあたっての残務を引き受けたのかもしれません」

「まぁな。一緒に江戸にいた近藤さんが許可したんなら文句は言えねぇ」

渋い顔のまま右手を顎に移した。
顎を触りながら部屋の隅を見るように何か考えている。

「荒れるな」

土方は一言呟くと夢主を見た。
総司と斎藤に任せたからにはここで俺が何か聞くのは筋違い、そう考えていても夢主の反応を確認してしまった。

夢主は土方の視線に気付き、小さく頷いてあげた。

・・・土方さんのお考えの通りです・・・そのつもりだった。

「そうだろうよ・・・ぁあっ!」

さすがの土方も苛立ちを声にして頭を掻いた。

「ようやく落ち着いてきたと思ったんだがな。どうやら俺を静かに振舞わせてはくれねぇみてぇだな、ははっ」

「お供しますよ」

斎藤はその方が面白いとニヤリ笑みを浮かべた。
もう一つ話がありますと、土方のそばに寄り、耳元で夢主の捜し人に関する報告を行う。

「人捜し」

「はい、いざという時に夢主が頼れると判断した人物です」

伊東との話を伝えるのは時期尚早だと、斎藤は嘘にはならない的確な言葉を選んで伝えた。

「いいだろう自由に調べろ。夢主、お前の決めた奴なら間違いあるまい、信じてやる」

「あ、ありがとうございます」

夢主は頭を下げて礼を述べた。
顔を上げると土方は優しい顔立ちに変わっていた。
嬉しくて夢主の表情も緩む。

「それと藤堂君がどこまで夢主の話をしたのかも確認が必要です」

「話したのかあいつっ」

穏やかになった顔も一瞬で、土方はカッと目を開いて怒った。

「伊東さんが私のことは藤堂さんから聞いてると仰っていて・・・それだけなんですけど・・・」

「そうか・・・だが分からねぇな。江戸に手紙を送ってみる。伊東にも探りを入れねぇとな」

藤堂の奴・・・
土方は考えながら斎藤と夢主を交互に確認した。
夢主はそんな動きを見ているうち、土方の机の上に視線が移った。

「あ・・・」

先日何度も書き直していた物が完成し、綺麗に整えられていた。

「完成したんですね」

「あぁ、完成さ」

夢主の視線を辿った土方が返事をした。
土方から離れた斎藤は何事かと二人を見る。夢主が何故知っているのかは分からないが、机上の書類を指していると気付いた。

斎藤に会釈をして今度は夢主が土方に近寄り、耳にそっと手を当てて囁いた。

「永倉さんの名前入れてあげないんですか」

「何っ」

まさかと夢主の顔を見て固まる土方だが、苦笑いを始めると行軍録を手に取って中を見た。

「・・・お前ってやつは・・・」

にっと笑うと今度は斎藤の顔を見た。
数ヶ月前に近藤の増長を非難する書状を会津藩に提出した者達がいたのだ。
その中に永倉がおり、今、目の前に座っている斎藤もいた。

永倉は江戸から帰るなり今更の謹慎を言い渡され、行軍録から名前も外された。
夢主は扱いの差に疑問を抱き、永倉を不憫に感じて口を出してしまったのだ。

「ごめんなさぃ・・・」

「今回だけだぞ。お前が口を挟むことじゃねぇ。・・・ただ、知ってたとは驚きだがな。やはりお前から目は離せねぇな」

フッと笑うと、斎藤に「もういい、戻れ」と顎で促した。

「行くぞ、夢主」

「はぃ、失礼しました・・・」

二人は揃って部屋を出た。
出過ぎた真似をしたと夢主は素直に反省し落ち込んでいる。

残った部屋で土方は、夢主の利用価値を知って伊東が動き出すのではないかと、心中穏やかでは無かった。
あまりに知りすぎている身を案じていた。
 
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ