斎藤一京都夢物語 妾奉公

□71.想いはまだ
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「女の気持ちを知り、それで尚我慢を強いるとは・・・酷だとは思わんのか」

「ぁ・・・」

目の前で語られる斎藤の言葉に、夢主は少しずつ正気を取り戻していった。
機嫌良く呑み、穏やかでにこやかだと思っていた斎藤の瞳。
今この近さで見つめると、その奥に揺らめく熱と切なさが控えているようだった。

・・・見えて・・・なかったの、私・・・斎藤さんの気持ち・・・

斎藤に触れられている顎先が痺れる。

「お前が何かを理由に、己を抑えているのは分かる。悪いが俺も馬鹿じゃない、一年以上・・・流石にその理由に、そろそろ想像がつく。まぁ馬鹿馬鹿しいとは思うがな・・・そこまで俺のこの先を気にかけてくれるのは、」

ふぅっと斎藤は一つ、溜息を吐いて夢主の顎から肩に手を落とし、顔を逸らした。

「まぁ・・・迷惑だが、ありがたいよ」

今すぐにでも抱いてしまいたいのに、それをさせてくれないのは己のこの後の人生の為。
なんとも理不尽で、それでいて思いやりを感じることか。

離れようとして夢主が伏目がちに体を引くと、斎藤の手は名残惜しそうにずるりと落ちた。

体を背けたのは斎藤の言う通りだと感じたからだった。
自分の気持ちを正直に伝えれば、夢主は胸のつかえが取れるだろう。
想いを伝えることで、そばにいる幸せを更に噛み締めることが出来るだろう。

夢主の気持ちを告げられた斎藤は・・・男はどうなのか。
思いもしない反応だった。

斎藤に気持ちを伝える。
所詮は自己満足なのか・・・夢主は俄かに哀しみを感じた。

自分の我が儘で斎藤をより苦しめていたかもしれないなんて。
夢主は俯いて顔を覆った。

「斎藤さん・・・ごめんなさぃ・・・」

「すまん夢主、お前が謝るな・・・少し言い過ぎた」

顔を隠して俯く夢主の頭を静かに撫でて言うと、夢主は返事代わりに頷いた。

「初詣・・・年末詣か。壬生寺でも行くか」

夢主は顔を覆う手を外すと静かに頷いた。
それを見て斎藤もフッと息を漏らした。

「その方が気が紛れるな、このまま部屋にいては・・・」

フン、自嘲するように斎藤も顔を伏せた。

・・・お前が欲しい。今すぐ・・・抑えられなくなるほどに、お前が愛おしい・・・

いつもそばで煩いほどに存在を示し、自分達の熱過ぎる望みを抑えてくれる沖田の存在を、この時ばかりはありがたいものだと思い知った。

「夢主、お前は、俺が守る。京の闇に・・・巻き込みはしない」

「斎藤さん・・・」

夢主が何か言葉を続けようかと思い巡らす間を与えず、斎藤は立ち上がった。

「酒はまた帰ってからだ。熱燗は美味いが体が・・・火照るな」

小さな声で独り言ちるように言い、斎藤は障子に手を掛けた。

「上着を着ろ」

「・・・はぃ」

ほんのりと感じる酔いと、斎藤の気持ちに頬を染めたまま、ゆっくりと腰をあげ上着に袖を通した。

「フンッ・・・」

出支度を整えて傍による夢主。斎藤は照れを隠して鼻をならし、戸を空けた。
冷たい戸風が一気に流れ込む。

「寺はきっと混んでいるだろう」

「はぃ」

返事に頷き返した斎藤が夢主の前を行き、共に壬生寺を目指した。

間もなく年が明けようとしていた。
 
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