斎藤一京都夢物語 妾奉公

□73.籤吉凶
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土方の部屋に向かった鉄之助は、中に入るなり顔の赤さを指摘された。

「お前熱がうつったか。だいぶ赤いぞ」

「いえっ、そうではなくて・・・その・・・」

「夢主はどうしている」

「今、斎藤先生がいらして・・・髪を・・・整えています・・・その・・・お二人の姿があまりにも・・・」

「ははっ、艶っぽかったか」

「つっ・・・」

「ふっ、確かに色っぽい二人だな」

「は、はいっ」

鉄之助は真っ赤な顔で頷いた。

「まぁ色男を目指すなら斎藤より俺を見て学ぶことだな」

「えぇっ、土方先生をですかっ」

「俺はこれでも浮名の知られた色男だぜ・・・」

「うっ・・・私にはいらない知識ですっ、色事はまだ早いですからっ」

「ははっ、真面目だなっ!揶揄って悪かった!お勤めご苦労さん、もう一日あそこで寝かしてやろうと思うから、斎藤が出て行ってからでいいから戻ってやってくれ」

「はい、分かりました」

「よし」

土方は満足そうに鉄之助の肩をぽんと叩いて部屋を後にした。

沖田の部屋では斎藤が髪を拭き終えるところだった。
時間を掛けて清められた髪、夢主はすっきりした心地良さを感じた。

「最後だ、櫛でといてやる」

「あっ・・・その櫛」

「あぁ。お前がいつも使っている櫛だ。大事に・・・しているな」

自らが買い与えた櫛を大切に使う姿を毎日見ている。
夢主の髪をといてやるのは初めか・・・
斎藤は感慨深げに櫛を眺めてから髪に通した。

「櫛くらいは自分で・・・」

「ここまでしたら最後までやってやるさ、こんな時くらい人に任せろ」

「はぃ・・」

・・・今日は素直に甘えられます・・・

「大吉・・・」

「んっ」

「いいえっ、大吉ってやっぱり当たりだと思っただけです、ふふっ」

「おかしな奴だ」

「でも大凶って言うのは外れですね」

「あぁ、あれか。あれは嘘だとよ。冗談だと言っていたよ」

「嘘っ?!沖田さんのっ?」

驚いて斎藤を振り返ろうとするが、頭を抑えられ顔の位置を変えられなかった。
嘘だというのは本当だ。
斎藤は沖田の凶籤の事を詳しく話し、夢主に心配をさせたくなかった。

「まぁいいじゃないか、面白かったことだし部屋を借りているんだ、帳消しにしてやろう」

「ふふっ、そこまでの嘘じゃありませんけど・・・」

「そうか」

「はぃっ」

夢主は櫛が触れるくすぐったさを堪えて、終わるのを待った。

「斎藤さんの指って気持ちいいですね・・・触れられていると・・・気持ちいいです」

「そうか」

応えた後に夢主に見えないよう斎藤は含み笑いをしていた。
気持ちいいとは光栄だ。更に優しい手つきで髪を梳いた。

「終いだ」

整え終えた髪を再び結わく前に、斎藤は頭を一撫でしてから紐を手にした。
結んだ後、夢主に気付かれぬよう名残惜しそうに毛先まで指で辿った。
さらりと背に落ちた髪を見て、斎藤は密かに笑んだ。
 
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