斎藤御膳

□1.真朱の陽のもとで
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夕陽に染まった会津の城下で、斎藤は出会った。
一人の女が町外れを目指し、やがて見えた社の階段を上っていく。
後を追うと、誰もいない境内で静かに手を合わせていた。

社の周りには森が迫る。
ここ会津に戦火は届いていないが、世は戦の真っ只中。
この時勢、こんな時間にうら寂しい場所を一人訪れるのは、男であっても避けるもの。
それを女が一人、なんとも心許ない。しかも身なりが良く、それなりの身分を窺わせる。

──格好の餌食。
斎藤の脳裏にはそんな言葉が思い浮んだ。

斎藤の背後には共に闘ってきた男達が立っている。
傷病人を連れて先に会津入りした新選組の一部の者達。
出陣の命が下るまで時間を持て余した男達は、城下を巡察をしていたのだ。

男達の粗野な視線を一身に浴びて、女は振り返った。
社の入り口を塞いで立つ見知らぬ男達を嫌悪したのか、怯えた顔でたじろぐが、女はすぐに気強い顔を取り戻した。詮索を拒むように斎藤達の横を急ぎ足で抜けて、社の階段を駆け下りて行った。

人通りが減る黄昏時、女を一人行かせるわけにいかない。
迷惑を承知で男達は後を追うが、女はついぞ振り返ることなく、ある武家屋敷に姿を消した。

「あの女は」

「この屋敷、あのお方は夢主様でございますな。苗字夢主、照姫様のご祐筆を務めておいでです」

「苗字、夢主」

苗字夢主は何故あのような場所で一人手を合わせていたのか。
斎藤は赤く染まった辺りを見回し、西日に目を眩ませた。
目を突く光だが、美しくてならない。

「会津の夕日は美しいな」

「えぇ、会津は何もかもが美しい土地です」

会津に詳しい隊士の言葉に頷き、斎藤は暫く夕日を眺めていた。
 
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