まかない飯

幕】沖田の仕置き
1ページ/5ページ


「全く仕方が無いなぁ。夢主ちゃん、そんなに酔っちゃ駄目ですよ」

夢主と斎藤、そして沖田の三人で呑み始めて間もなく、夢主が眠そうに傾いて沖田に凭れかかってきた。
沖田を信じきって、酔っているとはいえ警戒心のかけらも無い。何度も宥め続けた沖田の顔が微かに歪んだ。

「もぅ、夢主ちゃん、僕だって男なんですよ。全く・・・」

困った声で戒める。
愛しいヒトが目の前でそんな隙だらけでは敵わない。姿勢を崩して体が傾き、衿元は緩む。
綺麗なうなじから続く白い肩、浮き出た鎖骨、艶っぽい姿だ。
相対して酒に酔って細めた目元はとても愛らしい。

沖田の体の中で熱い何かが込み上げてくる。普段抑えられている沖田の中の男が騒ぎ出したのだ。
夢主は何も知らず、まだ酒を欲しがっている。
ふつふつと湧き上がる男の欲望、だが制御は出来る。沖田は優しく夢主を諭した。

「駄目ですよ、これ以上は。斎藤さんにも無防備すぎるって怒られたばかりでしょう」

それでも夢主は「沖田さんは優しいからいいの・・・」と酔った声で甘えてくる。
微笑んで薄ら開いた口から聞こえる声は、まるで微睡んでいるような曖昧さだった。

目の前で斎藤が笑いながら酒を進めている──


「もう斎藤さん!手伝ってくださいよ!」

「ククッ、夢主一人くらい君でも運べるだろう」

「・・・・・・連れて行っちゃいますよ。いいんですか」

沖田はふいに表情を変え、斎藤を見据えた。

「・・・・・・俺には、関係ないさ」

「本当ですね」

沖田は夢主には見せた事の無い顔で答えた。
挑発的な眼差しは、誰かに刃を向ける時とも違う。
夢主を支える手を一度離すと畳に寝かせ、置いてあった刀を腰に差した。

「僕の部屋で介抱します。いいんですよね」

横たえられて赤い顔で「うぅん・・・」と微睡む夢主を沖田は大事に抱えあげた。
もう一度視線をぶつけるが斎藤は何も答えない。沖田は確認しましたよと告げるように睨み、部屋から出て行った。

斎藤は苦々しく思うが、沖田は自分が惚れた女を連れて行くのだ、止める理由が無いと放置して一人手酌で酒を進めた。

「ちっ」

荒々しく猪口を置くと酒がこぼれてしまった。
 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ