まかない飯
□幕】剣客達の恋話と色話
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半ば強制的に強い酒で眠らされた夢主。
すやすやと心地良さそうな寝息を立てて眠っている。
「こうして見ていると・・・つい手を触れたくなってしまいますね」
沖田は優しげな眼差しで見つめている。
斎藤は夢主の寝顔はいつでも見られるといった余裕なのか、ちらりと見るだけですぐに元の場所に視線を戻していた。
「フン。完全に落ちているから少しくらい気付かんだろうよ」
「そうですね・・・って斎藤さん、もしかして屯所で寝てる時に何かしているんですか!!」
思わず声を荒げた沖田は、膳に膝をぶつけてガタッと大きな音を鳴らした。
「まさか、寝ている女相手にして何の面白みがある」
「そうですか・・・良かった」
阿呆臭いことを聞くなと言う斎藤の態度にほっとした沖田は、再び夢主に視線を戻した。
「愛しい人と結ばれると言うのは、とても素晴らしい事なんでしょうね」
ここで沖田の言う素晴らしいとは色事の話だ。
斎藤は沖田の呟きに何も答えず酒を注いでいる。
「斎藤さんは今まで・・・本気でどなたかに想いを寄せたことはあるんですか」
沖田からすれば素朴な疑問だった。
土方や原田とも全く違い、普段は女っ気のない斎藤だが、女の影が似合う男だ。
色事もそれなりの場数を踏んでいると感じさせる。
「さぁな。江戸でのことは忘れたさ」
そう言うと斎藤はフッと息を吐くように笑い、酒を進めた。
「そうですか・・・羨ましいですね。僕はまだ無いなぁ。だれかを心から愛おしく思って・・・結ばれたことは・・・」
沖田の酒はすっかり止まっていた。
何度か皆につられて妓を買ったものの、全く楽しくなかった夜を思い出していた。
「まぁ、男ならそのうちにそんな時が来るだろうよ」
「そうでしょうかね・・・・・・僕には一生叶わない気がします」
沖田は伏目がちに夢主の姿から目を離した。
夢主を想っている限りは。
そして他の誰かに自分の心が動くとも思えなかった。
「斎藤さんは僕と全く違うと思うんですけど。色事に関する情は似ているんじゃないかと思っちゃって」
「どういう事だ」
変な所を比べるなと、斎藤は眉をひそめた。
「いえ、変な意味じゃないですよ!ははっ。土方さんとかモテる人って言うのは結構女の人を支配して喜んでいるじゃないですか。土方さんの事は大好きだけど、土方さんの色恋のそういう部分だけは僕、嫌だな〜って」
「支配、か」
時には楽しいが・・・と斎藤は心の中で呟いた。