まかない飯
□幕】剣客達の恋話と色話
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「土方さんだって本気で惚れた女がいれば、支配よりも慈しみが先に来るだろうよ」
「そうでしょうか」
「そんなもんだ。土方さんの家は農民とは言えそれなりに裕福な家だったろう。それでいてあの顔立ちなら女は勝手に寄って来る」
「まぁ・・・確かに・・・じゃぁ土方さんは」
「まだ本気で惚れた相手がいないだけだろ」
「そういう事ですか・・・」
沖田は土方も夢主に惚れているのではないかと思っていた。
だが最近は全く気にかけていないようだ。ならば自分の気のせいなのか。沖田は首を捻った。
「斎藤さんは買ったヒトを相手にしていても満たされますか、・・・僕は全く駄目なんです・・・・・・このままだと一生満たされないままなのかなぁ」
斎藤は沖田の愚痴に小さく噴き出してしまった。
「フッ、沖田君、それは欲求不満だと自白しているようなもんだぞ」
楽しそうにククッと喉を鳴らしている。
「何ですか!だってそうなんですよ!花街なんてこれっぽっちも楽しくありません!あぁいう場では、皆とお酒を楽しむだけで充分です」
沖田は言い切った。
自分が好きなのは、好きな人達と共に過ごす笑いに満ちた時間。慕う人達が楽しそうにしている姿が何より好きなんだと。
「だったら惚れた女を押し倒したらどうだ。満たされるだろうよ」
そんな事をしないと知って、斎藤は沖田の自尊心を突っついた。
「そんな事をしても悲しいだけですよ。愛しい人が自分の下で泣きながら嫌がっているのに抱いてしまうなんて・・・」
本当に悲しそうな顔をして、沖田は下を向いた。
それで満たされる男もいるなど、沖田には理解出来ない。
「フッ、そんな顔するもんじゃあないぜ。こっちの酒まで不味くなる」
「ははっ、すみません」
沖田は苦笑いで頭を掻いた。
確かに心地よそうに眠る夢主を前にした酒の場で、暗い顔は似合わない。
過ぎた想像で塞ぎこむなど自分らしくない。
しかし、夢主の寝顔を見つめていると、浮かんだ寂しさは間違っていないと思える。
「でも・・・。だってその時、女の人は心も体も・・・全てを僕達に委ねてくれるのですよ、そんな事、想像できますか。僕には出来ませんよ。僕ら男のすること全てに対して素直に受け入れてくれて、全部晒け出して・・・ひとつひとつに応じてくれる。だからせめて、優しく・・・大事にしてあげたいじゃないですか。幸せだって、感じて欲しい・・・」
そう言うと、沖田は暫く持ったままだった空の猪口に酒を入れた。
全ての渇きを補うよう一気に酒を口に流し込む。
「だったらせめて頭の中で犯ってしまえ」
「ぶっ!!」
沖田はせっかく含んだ酒を噴き出してしまった。
「なんて事を言うんですか!お酒、噴いちゃったじゃないですか!」
口の周りを拭う沖田は、驚きと怒りで複雑な顔を見せている。
「手が出せないんなら、それくらいしか無いだろう」
「さっ、さ、斎藤さん、もしかしてっ」
「あぁ毎日のように犯してるぜ」
悪びれない斎藤の一言に、沖田の口がぽかんと開く。
「おいおい、大丈夫か沖田君」
斎藤はクックッと笑いながら手酌をしていた。