まかない飯

北】金平糖の夜
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「良いでござろう」

「でも、だって・・・みんないるのよ」

騒動があった昼間の疲れから、皆ぐっすり眠っている。
それでも年頃の若人が三人もいるのだ。薫はいけないと剣心を窘めた。

「部屋は離れているから、大丈夫」

薫は自らの体に触れる剣心の手を嫌がるように掴み、体を離そうとした。
剣心は「おやっ」と覗き込んだ。
薫の本音は探らなくとも透けて見える、俺の妻はそんな素直なヒトだ。

・・・クスッ・・・

笑いたいのを堪えて薫の体に添えた手を離し、代わりに布団を掴んで引き上げた。

「すまない、薫殿は今日はそんな気分になれないのでござるな、察してやれず・・・すまない」

「えっ、剣心・・・」

剣心の口元が微かに笑んでいるが、薫には分からなかった。
急に体を背け、顔を伏せて布団に潜り込む剣心に不安を感じる。薫は顔を覗こうと体を寄せた。
覗いていると気付いているはずなのに、何の反応も見せない夫。

「ねぇ剣心・・・どうしたの、怒ってるの・・・まさか寝ちゃって・・・あっ」

「ははっ、捕まえたでござる・・・」

「もぅっ!剣心たら」

覗き込んだ薫と目を合わせた剣心、ニコリといつもの優しい瞳を見せ安心させると、気が緩んだ隙を付いて、そのまま薫の体を自らの下に組み敷いた。

「嫌では無いか」

隙を突かれたとは言え簡単に転がされた薫は、少しの間、恨めしげに剣心を見上げていた。

・・・わかっていて無視していたなんて・・・

しかし、薫は観念したように小さく頷いた。
赤ら顔で必死に見つめ返すが、男にしては大きく美しい瞳に耐えられず、そっと目を逸らした。

「嫌なわけ無いよ・・・剣心のこと、大好きだもん・・・」

搾り出した本音を愛おしく感じ、剣心がそっと薫の頬に手を添えると、薫はぴくりと小さく体を弾ませた。
薫は頬の感触に耐えられず、何とか間をもたせようと口を開くが、出てくる言葉はただ頬に手を添えている夫への想いばかりだった。

「だっ・・・大好きで・・・好きで好きで、あの頃からずっと想ってたんだから・・・」

「拙者も、薫殿が大好きでござるよ」

・・・やれやれ・・・

言葉一つ一つに反応して嬉しさで顔をより赤く染め、恥ずかしさで緊張する薫。
剣心は慈しむような瞳を向けている。

・・・そんなに強張るな・・・

どれだけ夜を重ねても緊張を見せる薫を気遣い、剣心はそっと薫の髪を一撫でし、もう一度頬に触れて微笑んだ。

「・・・剣心」

「薫・・・」

「・・・ふふっ、くすぐったい」

「我慢するでござる」

ゆっくり近付く剣心の顔、少し意地悪に変わった瞳を隠すように揺れる豊かな赤い髪にくすぐられて、薫は小さく笑った。
 
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