まかない飯

明】蒸し夜のかくれんぼ
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小さな風呂椅子に座ると、一さんが、まずは脱げと言った。
先に脱ぐ必要が分からない。
でも、何だか逆らえなくて、半分譲って、私は上半身だけ先に肌を晒した。

右腕を残して、左腕は胸を隠すのに使っている。

渋々と私が支度をする間に、一さんは井戸で盥に冷たい水を満たして戻ってきた。
一さんも風呂に合わせたのか、白い寝巻一枚に着替えている。
そして私を見るなり、不満そうに眉根を寄せた。

「何故隠す」

「だって、恥ずかしいじゃ……ありませんか」

「ほぅ」

「一さんの、視線が気になっちゃいますし、それに……」

「それに」

「その、触られ……ないように」

「何故」

「何でって、だって、」

「夫婦者だが」

「でも治療中ですし、それに、急に触るなんて嫌ですよ、心の準備が」

「ほぅ。ならば少しずつ、それで構わんのか」

クククと聞こえてきそうな顔をして、一さんが私を試している。
いくら言い返しても、こういう問答は大抵一さんの勝ちに終わる。
私はただムキになるしか出来なくて、声を乱した。

「いえっ、そうじゃなくてっ」

「終わったぞ」

「あっ……」

私がもじもじと言い訳を続けているうちに、一さんは手際よく乾いた包帯を巻き直してくれた。
痛みも治まった気がしてしまう。
一さんの手当てには、不思議な力があるみたい。

「折角巻き直したんだ、濡らすなよ」

「あ、はい。ありがとうございます」

「次は体だ。脱がすぞ」

「えっ」

「濡らすなよ」

どういう意味で、言っているんですか。

一さんは問答無用で、私から濡れた襦袢を剥ぎ取った。
襦袢に触れぬよう、右腕の位置を意識して上げていることしか出来ず、気付いたら、一さんが手拭いで私を拭き始めていた。

「自分で出来ますからっ」

「いいや、駄目だ。昔、お前も俺が怪我した時に世話してくれたろう」

「それとこれは話が別でっ」

悔しいけれど、水で濡らした手拭いが動くと気持ちよい。
べとついた感覚が消えて、手拭いから肌に移った水分が気化する際には、冷感を与えてくれる。

「あのっ、でも」

「文句を言うなら言えんようにしてやるぞ」

「ぁっ、言いませんっ、ンふっ」

右手を上げてガラ空きになった腋に、一さんが入り込んだ。

腋を擽るように舐める一さん、手拭いは異様に優しく私の胸を拭いている。
円を描くようにくるくると、左手が覆う乳首だけを避けて、同じ場所を行き来している。

「んんっ、文句、いいませんからっ、ぁンっ、擽ったィ」

「そうか、ならば黙っていろ」

「ゃンんっ、ひァ……まってッ」

「黙れと、言っているんだが」

一さんは、私が我慢できないのを面白がって、執拗に肌を苛めてくる。
私が右腕を濡らすまいと必死に上げているのを良いことに、私の不自由さを利用して、ひたすら刺激を繰り返している。

「だめ、まってくらさ、ンンッ」

耐えられなくて、私はついに左手で右腕を支えた。

「偉いじゃないか、右腕を濡らさない。頑張っているな」

「ンぁアッッ、だめぇッ、ンンッ、倒れちゃうよぉ」

「俺が支えてやるさ」

座った状態で両腕を上げて、一さんの愛撫に耐えなければならない。
もう体を横たえてしまいそう。
無理ですと懇願すると、一さんは私の背中に手を回して、体を支えた。

ちょうど一さんの目の前にきてしまった私の胸。
全部計算尽くなの、駄目と訴える私の目を見た一さんは、ニッと笑んで私の願いを拒んだ。

私の胸が、一さんの口に弄ばれる。
舌で、唇で、歯で、器用に私の弱いところを責めてくる。
背を仰け反っても一さんはしっかりと私を固定して、胸が突きだされて好都合とばかりに、愛撫を強めた。

「ィやァアッ、もう、むりですぅっ、イいッ、ンンッ、ぁふっ、きちゃゥ、ンッッ」

「唇を噛むなよ」

「ふァアッ、ハぃ……ンンッ、」

一さんは私の全てを知り尽くしている。
強弱をつけて噛んだり吸ったり、時に舌先で突いて舐めて、小さな性感帯だけで果ててしまう私の体を知っている。
逃げようとしても、一さんに体を鷲掴まれて身動きが取れない。背中と腰に指が食い込むほどの力を感じる。

きっと、一度果てるまで終わらない。
一さんの意地悪さは知っている。

私は観念して、一さんに与えられる快楽に身を委ねた。
恥ずかしくて堪らないけど、気持ちいいって認めたら、一気に昂っていく。
淫らな痺れが駆け上り、私は羞恥を忘れて声を荒げた。

悲鳴のような泣き声のような、短く濡れた声を繰り返す。
もう自分の耳には届いていない。

つま先まで伸びた足、力みで指がきつく曲がっている。
やがて脚が震えたと思ったら、足先の力みが消え、上げていた腕は一さんを抱きしめるように静かに落ちた。
私は一さんの刺激で、淫猥な絶頂を味わってしまった。

「達したか」

「っ、……」

きっと、私は今とんでもなく赤い顔を晒している。
フッと笑んで余裕を見せる一さん。その一さんの目の前で、私の胸が呼吸に合わせて大きく動いている。一さんがいっぱい苛めるから、私の顔だけではなく、ぷっくり膨らんだ乳首まで赤らんで見えた。

「もぉっ……」

「どうした」

どうしただなんて、分かっているくせに。
いくらむくれても一さんは余裕の笑みを崩さない。

局所を狙った単純な愛撫でイってしまったのは事実。
それも、珍しくない出来事。

恥ずかしくて仕方がないのに、どうしても抗えない。

「一さん、意地悪です」

強がるのが精一杯。

「そうだな」

優しく囁かれて、私の心はあっけなく望んでいた。

「あの、だから……」

私は一さんに掛けていた腕を解いた。
言葉で請えず、そっと脚を開いてみる。
一さんなら分かるはず。
だけど、一さんは容赦ない人だから、きっと……。

「言葉にせねば分からんぞ」

「っ……」

言いたくないのを承知で、私に言わせる。
厭らしい望みを言う、声を出すのも苦しい。
でも、このまま終わってしまうのは、もっと苦しいから……。

「して、ください、一さん……入れてください……いっぱい、して欲しいっ」

「……」

黙って私を見つめる一さんの、口元が大きく歪んだ。
何か言ってくれないと、恥ずかしさでおかしくなってしまいそう。目頭が熱くなって、呼吸がまた乱れ始める。
暑さではなく、我慢出来ない昂ぶりが、私の息を乱していく。
どうして焦らすの、悲しい顔をしたら、一さんの歪んでいた口が開いた。

「いいぞ、犯してやる」

「ちがっ」

「悪い、間違えたな。お前を抱いてやる」

「…………はぃ」

でも、だけど、ここで?
包帯を気に掛けながらなんて出来ない。
そう思ったら、一さんの手に力が加わった。

「あっ」

軽々と持ち上げられて、一さんの、硬い一さんの上に、私の体を乗せようとしている。

「腕は俺に回せばいい、それで濡れない」

「でもっ、……ァンンンっ」

「終わったら水浴びをするぞ」

だからここが丁度いい。
囁くと一さんは、私を奥深く貫いた。
座った状態で繋がった私達。
蒸し暑い夜、一度触れると肌は吸い付くように張り付いた。

私が全身の力を失うまで、肌を擦り合わせるような激しい動きが続く。
一さんが私の中で全てを解き放ち、律動が終わった時、二人の全身は水浴びをした後のように汗濡れていた。



[完]
 
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