おつまみ

明】奇妙な残党〜六連ねの鳥居の叢祠
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「んっ・・・ガキ?」

今までより小さい人の影が目に入ってきた。
視線を落とすと吹っ飛ばされたのか転がる少年がいる。体に大きな傷は見受けられず、瓦礫に潰されてもいない。
斎藤はおもむろに黒い靴先で少年の頭頂部を小突いた。屈めばまた傷口が開いてしまう。

「おい、起きろ。生きているんだろう」

場所を変え続けて何度か蹴る斎藤、意識が戻ってきた少年は「ぅう」と声を漏らし始めた。

「おい、急がんとここも吹き飛ぶぞ、死にたくなければ自分で動け。悪いが俺は手は貸さん」

「っ・・・痛ぇえーーな!!!てめぇ!!!」

少年は突然勢いよく起き上がり、戦闘態勢を取って斎藤に向かい凄んだ。

「おいおい、冗談じゃないぜ、今はそんなことしている暇はない。お前、生きたいならさっさと外に出ろ」

「生きたいなら・・・」

少年は考えるように腹に手をあてた。
背を屈めると、布越しに何かの形が見える。背中に硬い何かを隠し持っているようだ。

ぐぎゅるるるぅ・・・

「腹、減った。なんか喰い物、お恵みやがれ!」

斎藤は目の前で腹の音を鳴り響かせ、奇妙な言葉で飯をせがんでくる少年に、相楽左之助の姿を重ね眉をしかめた。
飯奢ってくれ・・・そんな声が頭の中でこだますると、ますます眉間の皺が深くなる。
だが、砦の奥で更なる爆発が起きたのを聞き、少年を外へ促した。

「外に出れば飯なら用意してやるぜ」

「本当かっ!!嘘じゃねぇな!!!」

「あぁ本当だ」

「ぅおおおおっし!!先行くぜ!!!」

斎藤の返事を聞くなり勢いよく走り去った少年を見て、今度は明神弥彦の姿を思い浮かべた。

「やれやれだぜ、志々雄の野郎あんなガキまで飼っていやがったとは」

外は直ぐそこだ。
脚の痛みを堪えて進むと光が見えてきた。祠から出ると先程の少年が暴れている。

「あぁっ、さっきの野郎!!!おいてめぇ!!!話が違うじゃねぇかっ!!!」

暴れる少年の周りには意識を失って倒れている警官が三人、更に三人の警官によってようやく取り押さえられていた。

「ほぉ・・・お前なかなかやるな」

「煩ぇえ!!!飯だ!!飯はどこだよ!!!騙しやがったな!!」

「飯なら食えるだろう。嘘はついていないぜ、これから毎日用意してやるよ」

「本当か・・・」

「あぁ、一日三食きっちりとな、どうだ文句なかろう」

「あぁ!!なら・・・いい・・・」

途端に大人しくなった少年。
斎藤はおかしな奴だ・・・そう思いながら煙草に火をつけた。

「藤田警部補!!ご無事でっ!!」

警官の一人が斎藤のそばへ寄り、現在の名前と肩書きで声を掛けてきた。

「あぁ、思ったより手間取ったがな」

「足にお怪我を・・・ここは我々に任せて早く手当てを!!!」

フゥ〜・・・

長く煙草の煙を吐き、消えていく煙を見届けて部下の男に目を移した。

「頼んだ」

「はいっ」

「それから"アレ"に何か食わせてやれ」

斎藤が顎で少年を指すと警官は「はぁ・・・」と座り込む少年に目を向けた。すっかり観念した様子で大人しくしているが、腹を押さえてしきりに首を動かしている。

「食いもん見つけようとまた暴れだすぞ。その前に食わせてやれ」

「はっ!!」

斎藤は畏まる警官に向かい目礼をくれ、煙草を手にしたまま歩き出した。
静まった少年が斎藤を見送っている。
先程も感じた違和感、やはり何か隠している。だが斎藤は詮索する気にはならなかった。小童一人、なんとかするだろう。
形見の品か・・・そう考えながら背を向け、少年の視界から消えていった。

その後、少年が隠し持っていた物を奪われそうになり、一暴れして抵抗し、そのまま脱走した事は斎藤の耳には届かなかった。
再び捕らえられるのは食い逃げをした時。守った物は既に隠した後だった。

それから五年、再び斎藤がその少年を目にする時、彼は明日郎と名乗る事になる。

明治十六年初秋、かつて命運を共にした数多くの仲間達が散った戊辰戦争終焉の地、蝦夷地改め北海道にて、新たな物語が始まろうとしていた。


[完]



北海道編が待ち遠しいですね(*´◡`*)
2017.3月末


明日郎前科アリを読んだ後に書いた短編です。

六連ねの祠で単独行動中の斎藤さんが明日郎と出会っていたら面白いなぁと書いてみました。
本当は決戦待機中の志々雄さんの取り残された夕餉を食い散らかしている場面に遭遇する斎藤さん・・・を思い浮かべたのですが、出口で転がってる場面に(^^;)

2016.7に訪れた碧血碑の写真
→次のページに少し貼っておきますね(^^)

※転載・配布はご遠慮下さい
お絵かき・文章執筆の参考資料にはご自由にどうぞ(^^)
 
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