おつまみ

北】尖って甘い金平糖
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「お、金平糖でござるか。剣路、拙者にも一粒・・・」

「ブーー! !」


「・・・やれやれ、剣路はいつになったら懐いてくれるのでござろうか・・・」

先刻、可愛い我が子が手に持つ金平糖をねだってみるも、あっさりと断られてしまった。
容姿は父に良く似た息子だが、なかなか懐いてくれずにいる。
洗濯物を干し終えた剣心は、ふぅとひとつ太い息を吐いて盥を置き、縁側へやって来た。
空は良く晴れて程よい風がある。洗濯物はすぐに乾くだろう。

襷を解き、ひらひらと落ち葉の舞う庭でも眺めながら一息つこうと腰を下ろした。
すると、突然の強い刺激を感じ、大声と共に飛び上がった。

「っーーー! !」

「何っ、どうしたの剣心っ!」

「か、薫殿・・・いや、何でもないでござるよ、一体何が・・・」

剣心は運悪く守るものが少ない尻の坐骨の下に何かを挟んで座ってしまったのだ。
顔をしかめて尻の下を確認すると、尖った何かがひとつ見つかった。

「やれやれでござる・・・これは」

尻の下で見つかったものを指で掴んで目の前に持ってくると、秋の柔らかな日差しを受けて、愛らしい色に輝いている。

「あぁっ!金平糖じゃない!さっき剣路が『やっぱり、とうちゃんにもー』ってしてたから・・・」

「拙者に」

「そうよ!でもすぐにいなくなっちゃったでしょ、だからきっと剣心がいつも座るこの場所に置いたのよ!なのになんで気付かないで座っちゃうのよ!飛天御剣流のクセに、そんなトコは鈍いんだからぁあっっ!」

「おろぉおおおっ、か、薫殿っ止めるでござるぅっっ」

剣心は体を激しく揺さぶられながら、指先で摘んだ金平糖を落とさないよう必死に守り、薫の怒りが収まるのを待った。
しかし、ふと現れた小さな気配に、薫の動きはピタリと止まった。

「剣路・・・」

「うぅっ・・・あぁーーーーっ!!!」

「もっ、剣心たらっ!」

二人の事を見ていたのだろう。
折角あげた金平糖を尻敷きにされ、痛みに苦い顔をする父を見て、剣路は走り去ってしまった。

「剣心の馬鹿っ!せっかく剣路がくれたのに、剣路傷付いちゃったじゃない!」

「すまないでござる・・・」


「・・・ぅう・・・」

二人の前から逃げ出した剣路は、庭の隅でいじける様に土を弄っていた。
温かい日を背中に受けながら触れる土はとても冷たい。
ひんやりとした感覚を味わっているうちに、小さな目には涙が滲んでいた。
 
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