おつまみ
□北】尖って甘い金平糖
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「剣路・・・」
「っ、ゃあっ!」
父の声を聞いた剣路は振り向きざま、怒っているのか泣いているのか、本人にもわからない声を上げた。
弄っていた土を掴み剣心に投げつける。
自らの影の中の土だけを見ていた剣路は、まぶしい陽射しに目が眩んだ。
背後に腰を落として声を掛けてきた父の顔が、良く見えなかった。
だが、すぐに父は笑っているのだと気が付いた。
「はは・・・怒らせてしまったでござるな。剣路、すまない。金平糖、貰ってもいいか?」
「ぁ・・・」
父が首を傾げると、剣路が投げつけ髪に残っていた土がぽろぽろと地面に落ちた。
そんな事は気にならないと、剣心は優しい笑顔で金平糖を一粒摘んでいる。
「剣路がくれたのでござるな、ありがとう。父ちゃん、何よりも嬉しいぞ」
「うぅ・・・」
温かい笑顔に剣路の心が解れたのか、不機嫌な顔を収めて恥ずかしげに微かに頷いた。
申し訳なさを感じながら優しさを喜ぶ複雑な表情だ。
「いただきます・・・うん、美味しいでござる、剣路がくれたからでござろうなぁ」
剣心が硬い音を立てながらにこにこと金平糖を食べていると、剣路がよろりと近付いた。
「剣路?」
我が子の小さな仕種に一瞬驚き、そして目を細めて微笑んだ。
冷えた幼い指先が剣心の頭に伸びて、何度も何度も髪に触れている。
「ありがとう剣路・・・父ちゃんは平気だよ、もう綺麗だ」
「きれぇ・・・きれぇ」
剣路は一生懸命に小さな手で父の頭に付いた土を落とそうと撫でていた。
「剣路、お前は優しい男だな、母ちゃんにそっくりだ」
「あっ・・・とーちゃん・・・」
剣心は堪らず剣路を抱きしめていた。
愛しい者にそっくりな優しさを受け継いだ掛け替えのないわが子。
突然目の前の父に抱きしめられた剣路、いつもなら父の顔を力尽くで押し返そうと暴れる所だが、今は大人しく大きな手に甘えている。
「剣路・・・剣心っ・・・」
そんな二人の姿を見つけた薫は、そっと瞳を潤ませた。父と子の関係が心配になりやって来たけれど、いらぬ心配だった様だ。
やがて剣路が母に気が付き薫のもとへ駆け出した時、剣心は喜んで剣路を手放した。
「剣心」
「あぁ、大丈夫だ薫。剣路は自慢の息子でござるな・・・っ!痛たたっ!」
「べーーっ!」
「こら剣路っ!」
薫に抱っこされたまま剣心の髪を引っ張り悪戯する剣路の顔は、とても幸せに満ちている。
尖っていても甘い金平糖の様に、とろける顔で笑っていた。