おつまみ

懸隔譚・もう一度あの君と
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❖前記❖
懸隔譚はその言葉通り、原作と懸け離れた世界の物語です。

原作とも他の斎藤御飯のお話とも、全くの別世界線。
剣心と師匠 〜 剣心夢要素 + 斎藤さん夢要素

このままだと一生非公開だと思ったので、未完成な部分もありますが公開することにいたしました。
後半はプロット状態です。ご了承くださいませ🙇
直接表現はありませんがR18、乱暴な行為が含まれております。
まかない飯かおつまみか迷いましたがコチラに起きました。





心太が比古清十郎に拾われて、二人の生活が始まった。
心太は比古から剣客としての名を授かり、剣心と名乗った。
二人は京の奥山に籠り山河の恵みを糧に日々暮らしていた。剣術の鍛練と同時に、自然の中で生きる術を学ぶ。どんな場所でも、どんな時代であっても、生き延びる力を備えるための暮らしだった。

俗世と関わらぬ暮らしだが、山を下りる機会はあった。
二人が暮らす山は京の町から離れているが、麓には小さな村がある。村を抜けて進めば、更に大きな村に出る。そこを抜ければやがて人の往来がある通りに出て、ぽつぽつと店が見えた。

比古が愛してやまない酒、朝日山・万寿を手に入れるため、また、山で捕らえた獣の肉や毛皮を売るため、月に一度は山を下りた。村で穀物に変えてもらうこともあれば、町まで行き現金を得ることもある。
現金はもちろん、酒に代わった。

幼い剣心は、山を下りる比古の後ろを懸命に追いかけた。
初めて小屋にひとり取り残された時、剣心を孤独が襲った。突然冷たく吹き抜ける山の風、怒りを表すが如く音を立てて揺れる木々、何処からともなく伝わる獣の気配。山での孤独は命を脅かす。

剣心は幼くして死の恐怖との闘いを幾度も体験している。
飢えの恐怖、病の恐怖、夜盗の恐怖。全ては死につながり、別れをもらたす。
比古と出会いもう一度得た人の温もり、けれども、今度もまたすぐに失うかもしれない。
だから期待しない。何も怖くない、不安などない。死ぬことすら怖くない。
そう思っていたのに、幼い剣心は必死に比古の背中を追いかけていた。



時を経て、その剣心も、いつしか楽しみに誘われて山を下りるようになっていた。

たまに歩く京の町は物珍しい。
通りかかる村には似た年頃の子供たちがいる。

比古が遠出をする際、幼かった剣心が一度村に残されたことがあった。
残された剣心が戸惑ったのは一時のことだった。
村に置いていかれた剣心は、比古が戻るまで子供たちと遊び、村の手伝いをする楽しみを知った。

戸惑ったのは比古だ。
口では強がっていても、連れていってと訴える目で自分を見送っていた剣心が、此処で待つと目を輝かせて言い出したのだ。

理由を知れば、村の手伝いだと言う。本音は同じ年頃の子供らと過ごしたい、だろう。
見抜いた比古だが、子供らしい要求を無碍にも出来ず、自分が戻るまでだと村での滞在を許した。
一度は全てを失った幼子、他人との関わりは剣の理を理解する助けになるはずだ。
畑仕事やあぜ道の補修に家屋の修理、村人と触れあうことで、剣心は様々な人格や感情に触れた。

愛弟子の剣心が山籠もりでは得られない経験を積む機会、おまけに、古道具を譲り受けるなど、比古自身も利を得ていた。
良い状況だ。しかし、ずっとこのままではいられない。剣心は明らかに村の暮らしを楽しんでいる。
ある日、比古は重い口を開いた。

「村での経験は貴重ではあるが、程々にしておけよ、深入りはしない方がいい」

「師匠はいつだってそうだ、村の人が困っているから手伝っているだけなのに。困っている人がいたら助けてあげなければ。そう言ったのは師匠ですよ」

言っていることは間違いではない。が、比古は頷けなかった。
違うんだ、剣心。
比古は再び開きかけた口を、そっと閉じた。今は何を言っても届かないだろうと黙り、剣心の小生意気に輝く大きな瞳を見下ろした。比古は、深入りした先に待つものを危惧していた。

そうは言っても、剣心は村をすっかり気に入っていた。
村に下りるのが月に一度でも、何度も会えば顔は覚えるし、顔を知り話をすれば名前も覚える。顔と名前を覚えれば、親しくなるのは自然な流れだ。
剣心は村に滞在していると、とても懐かしい空気を感じた。自分が生まれ育った貧しい村、あの村に似た空気だと気付いたのだ。

年が変る頃には、剣心はすっかり村人たちと打ち解けていた。
人との関わりは知らねばならぬもの。だが、何かに肩入れをしてはならぬのも、剣心が受け継ぐ剣の理だ。
比古は、剣心と村人の近すぎる距離を危ぶむが、依然黙って見守った。



そのうちに冬が訪れ雪が積もり始めると、二人は山に籠った。
雪が積もり氷が張ろうが剣の鍛練は続く。息の白さが消える季節まで、二人は修行に打ち込んだ。

次に二人が山を下りたのは、静かな村に活気が戻る季節。二人は雪解けを待って、山を下りた。久しぶりの下山だ。剣心の足は自ずと速まった。

剣心は、村の年長者たちにも大層可愛がられていた。
畑を共に耕し、猪が出た時などは、摩訶不思議な身のこなしで木の棒を振り回し退治してくれるのだから、村の皆が感謝した。

比古は、一つだけ村の大人たちから約束を取り付けていた。
剣心を決して、村住まいに誘ってくれるなと伝えてあるのだ。

その話は村の子供たちにもそれとなく伝わっていた。
大事な役割を追う子ゆえ、決して村に住むことは無いと。

けれども、仲良くなれば心の距離が縮まるは必然、子供たちのうち、年が近い娘を意識してしまうのは年頃の剣心にとっても仕方がない出来事だろう。
畑仕事の合間に他愛のない話をしたり、山での暮らしを語ったり、いつしか幼馴染のように打ち解けていた。
笑ってくれるのが嬉しくて、剣心はたまの手伝いに全力で挑んでいた。

冬を越えて再会した剣心と村娘。別れ際に手を振る娘と、やけに嬉しそうな剣心。町から戻った比古は、剣心と合流すると、人知れず深い溜め息を吐いた。
 
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