おつまみ

北】第十五幕 幕間・おとこたちの宴会
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碧血碑の前で勢揃いした猛者達。
力試しと意思の確認。
顔合わせを終えて、それぞれの宿へ戻って行った。

その別れ際、隊長・副隊長の打ち合わせと称して宴を言い出したのは永倉。
幕末に特別な思いを持つ緋村、斎藤、永倉の三人で膝を突き合わせることになった。

「悪いな緋村」

「構わんでござるよ、二人は先に碧血碑へ戻っていてくれ」

緋村は一人買い出しを引き受けた。
旅館や酒処、腰を下ろす場所は多々あるが、三人が選んだのは碧血碑。
動乱の時代を生き抜いた男達には何処よりふさわしい場所だろう。

斎藤は永倉と緋村が話すうちから背を向け歩き出していた。
緋村に一旦別れを告げた永倉は一人先を行く姿を追いかけ、小走りで追いつくと毎度のことのように、ぽんと肩を掴んだ。

「よぉ、一緒に行けばいいじゃねぇか、今回は仲間だろう。お、今回も、か」

「フン、買い出しは一人で十分ですよ」

いつものそっけない言葉は緋村へ向けたもの。
嫌がる様子は見せないが、肩を寄せてくる永倉の腕からするりと抜けて、碑への階段を上って行く。
後ろから見ればよくわかる。
肩に掛けられた警官の制服、上着の空っぽの袖。持ち主に呼応するよう、段を上るたびに大きく揺れている。

「つれねぇなー。お!俺とサシで話したかったか、素直に言えよー照れくせぇなぁ!」

「永倉さん」

「ははっ!そんな顔するな!」

やや呆れ気味に肩から振り返る斎藤に構わず、永倉は楽しそうに笑っている。
動きが止まり、腕が通らぬ袖は静かに垂れた。
その様に口をつぐみそうになるが、永倉は変わらぬ明るさで続けた。

「ま、緋村が戻るまで久しぶりに語らおうじゃねぇか」

「確かに、二人で話すのは何年ぶりでしょうね」

「そうだろう、今日に至るまでの話聞かせろよ。緋村と一緒に闘った話聞きてぇなぁ」

「・・・そうですね。手短にですよ」

何年ぶりの再会か。
数えるのも面倒なほど久しぶり、それなのに時を感じないのは不思議なもんだ。
斎藤は素直に永倉の興味に応え、懐かしい話を語って聞かせた。
手短にと言ったが話は気付かぬうちに熱が入り、激闘を思い返して語るうちに左腕の怪我さえも忘れていった。


そんな二人から離れて一人店を巡る緋村は一軒の菜屋を覗いていた。
店の棚には煮物を中心に、いくつかの総菜が並んでいる。店は夕餉を選ぶ客で賑わっていた。

「さて、任せておけと言ったものの何を買えば良いのやら」

親しいようで親しくない。
信頼はしているが互いの私的な好みは全く知らない。
元新選組幹部の食事の様子など想像もつかず、棚の前で腕を組んで唸るしかなかった。

「あの男に好き嫌いがあるとは思えんが、変なものを買っていけば機嫌を損ねるだろうか」

機嫌を損ねれば、なかなかに面倒な男だ。
取り分けて我儘な男では無いが、先が見えない戦いを前に、扱いにくさが増すのは御免だ。

「うーん」

ぶつぶつ呟きながら品定めをする客を見兼ねて、店の主人が近寄って来た。
店主が客の顔を覗いた時、緋村はある品に目を留めた。

「これは外せまい」

「お困りですかね、お客さん」

「あぁ、ご主人。酒肴を幾つか揃えようと思っているのだが、何がいいやらさっぱり分からぬ。男三人なのだが」

「それでしたらこちらで見繕いましょう」

「お願いするでござる。あ、これを入れて欲しいのだが」

「良いものに目を付けなさる。それは美味いですよ、なんと言っても箱館戦争の折にあの・・・も好んだ一品です」

「ほぉ、それは丁度良い。きっと喜んでくれるでござろう」

周りの声で聞き取りにくかったが、教えられた話に顔色が明るくなった。

主人に任せて揃えてもらった惣菜の包みを手に、途中で酒を調達し、二人が待つ碧血碑へ戻って行った。
ちょうど日は沈み、残照が薄く道を照らしている。
暗くなっていく道とは対照的に、これからの宴を楽しみに思う自分がいた。
 
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