おつまみ

北】流れる宗次郎、斎藤の願い
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志々雄のもとを離れ、単身旅を続ける宗次郎。
年月は流れ、道中で懐かしい人物と再開した。
全く予期せぬ出会いだが不思議と顔は綻んだ。

「斎藤さんじゃありませんか!」

「そのツラは・・・瀬田宗次郎か」

「お久しぶりです!あっ、もしかして僕を捕らえに来たんですか、でしたら・・・」

話しながらいつでも場を去れるよう心づもりをする宗次郎、斎藤は密偵の自分は捕らえるばかりが仕事じゃないと呼び止めた。

「まぁ待て、今回はそのつもりでここに来たんじゃあない。ま、ついでに捕らえてもいいがな」

「えー!でしたら、やっぱり僕はこれで・・・」

「冗談だ、待て。全くの偶然だ。しかしお前もちょっとは成長したようだな」

宗次郎の全身を計るように見回した斎藤は腕を組んで感心の声を上げた。
背丈も伸び、何よりいい瞳をしている。志々雄の側近として飛び回っていた頃も与えられた仕事を笑顔でこなしていたが、その時とは瞳の輝きの種類が違う。
ささやかな日々の変化、生きる事を楽しんでいる光が見えた。

「そうですか?斎藤さんにお褒めいただけるとは嬉しいです。僕、一人で随分と旅をしたんですよ」

「ほぅ・・・」

「それで、いろんな人達と出会って、沢山の事を教えて貰いました」

久々の古い知り合いに気が良くなったのか、宗次郎は饒舌になっている。
余りに楽しげな姿に、斎藤も仕方なしと耳を傾けた。

「フッ、冗談抜きに成長しているようだな」

「僕って、感情の欠落でずっと本音を圧し込めていたじゃありませんか。だから素直に気持ちを出せるように訓練してきたんです」

自分が知る人物の中で『大人』に分類される斎藤に自らの成長を伝えたいのか、宗次郎は気になりますか?とばかりに首を傾げている。

「訓練だと」

「はい!ニコニコしているだじゃなくって、気持ちを素直に表情に出すんですよ!例えばこうやって・・・」

宗次郎は、すぅーー・・・と大きく息を吸って間を取った。

「わぁ〜斎藤さんだー!どっちかって言うと会いたくない部類の人物だなぁ〜、捕まっちゃうの嫌だな〜!縮地使って逃げちゃおうかなー、でも折角だしお話ぐらいは・・・と、こんな感じです」

「・・・ほぉ」

宗次郎は本音をぺらぺら話しながら様々な表情を作り披露した。
眉根を異常に寄せたり、目を大きく見開いたり、俗に言う変顔だ。変と言っても元来愛嬌のある顔だ、市井の者が見れば様々に変化して可愛らしい表情だろう。
斎藤は少し呆れながらも冷静に眺めている。

「斎藤さんもやってみるといいですよ!とっても楽しい気分になるんです!斎藤さんも余り表情に出さないでしょう」

「そいつは生まれつきな上に、仕事柄だ。顔にほいほい出すようじゃ俺の仕事は務まらん」

「あははははっ!確かにっ!」

素直に声に出して笑っていた。
心からの感情なのか、笑顔は様になっている。
斎藤は宗次郎の中にいる本当の姿を思いながら小さく太い息を吐いた。
性根は悪くないのだろう。それが故に歪んでしまった幼年期が惜しくてならない。

「その変な顔は役立たんがお前の足は役に立つ。もしその気があるなら・・・いつでも来い」

斎藤は真面目な面持ちで誘いの言葉を掛けた。司法取引、いわゆる裏取引だ。
十本刀の幾人かが既に応じ、特性を生かして新時代で活躍している。
天剣の宗次郎が活躍できないはずないだろう。
人の役に立ち感謝され何かを感じ取ることが出来れば、この男自身の為にもなろう。
俺とこいつ、どちらにとっても意義のある話だ。

「ははっ、斎藤さんは優しいや!そうですね・・・でももう少し旅を続けたいので。またお会いする事があれば、その時もう一度お話を聞かせてください」

「フッ、いいだろう」

まだ足りないというのなら自由に行けば良い。
今のこの男から殺気は微塵も感じられない。行動は常に把握されている。見守る限り、市民に危険は無いだろう。

「ではっ」

目を合わせると、にこりと会釈をして宗次郎は姿を消した。

「末恐ろしいな」

初めて目にする縮地に斎藤は目を剥いた。噂には聞いていたがこれ程とは。
自分を見つめ直す旅が終わり、再び現れてくれる事を願ってしまう。

「そろそろ次の世代に伸し上がってもらいたいもんだ」

斎藤はククッと喉を鳴らして煙草を取り出した。
いつまでも自分や緋村が最強と言われている様ではいけない。

「ま、追い抜かれる気は無いがな」

火をつけた煙草を咥えたまま、白い煙が空へ伸びていくのを眺めた。

伸びた煙の先はやがて風に揺れて消える。
見えなくなっても匂いはすぐに消えはしない。自分の存在もそんなものでいい。
いつしか匂いさえ消えてしまおうが、それで構わない。

己の力が及ばなくなる時、新たに正義を振るう者はいるのだろうか。
斎藤はそんな事を考えながら、瀬田宗次郎が消えた道に顔を向けた。
煙草が灰になり咥えていられなくなるまで、その先を見つめていた。



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ご覧いただきありがとうございます。

・宗次郎を誘う斎藤さん
・宗次郎がしそうにない変顔

を書いてみたくて纏めた短文です。途中少しネタ寄りです(^^)

北海道編登場前に書いたので宗次郎の状態に関してはご了承ください(``*)
 
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