おつまみ

幕新ゆらり
2ページ/6ページ


来た、と緊張が高まった途端、勢いよく障子が開いた。
体躯のいい男達がぞろぞろと入って来る。
夢主は目を丸くして姿勢を崩した。

「へぇっ?! えぇええ?!!」

驚く夢主を尻目に、男達は腰を下ろして次々と口を開いた。

「よおっ、目ぇ覚めたか!」

「良かった、おはようございます」

「おぉ、寝てる時より別嬪さんだな!」

「お体に触りはありませんか?」

「吃驚したぜ、急に現れるんだからよ!」

「にしても運んだ時に思ったが、変わった着物着てんな。麻でも絹でもねぇ、初めて触ったぜ」

そうだ、着物を着て京都に遊びに来ていたのだ。
改めて思い出した夢主、京都で入ったカフェの様子が思い浮かんだ。
古い町屋を活かした可愛い内装、和の空間で出された器は西洋のアンティークを模した現代のカップ。
楽しい時間を満喫して、それからの記憶が途絶えている。

夢主が記憶から目の前の光景に意識を戻すと、男達が繁々と夢主の着物を眺めていた。
化学繊維の洗える着物。男達にも異質な素材だと分かるらしい。
上質に見える着物が幸いして怪しまれずにいることなど、夢主は知る由もなかった。

いや、それどころではない!
夢主は落ち着いている自分を、心の中で叱咤した。
目の前にいる男達が問題だ。
見知った有名人ばかり。奇妙な状況にあるのは明らか。

……でも、ただの似た人物なのかも……

自分を納得させようとしたが、揃いも揃って似すぎている。
夢主は思い切って聞いてみた。

「あの、みなさんは新選組のみなさんですか」

その言葉に、ざわついていた一同が口を閉ざした。
嬉しさを顔に表し、質問攻めが始まった。

「おぉーそうだぜ! 俺達も有名になったもんだな!」

「お前、言葉が京じゃねぇな。江戸の人間か」

「立派な召し物着て、一人出歩いてたのかい」

何かがおかしい。
夢主は首を捻った。
彼らが新選組なのは分かったが、どこの新選組だ。まさか幕末にタイムスリップした訳でもないだろう。

理解しきれず困り果てた夢主。一人遅れて有名人がやってきた。

「あぁーーー! 鬼の副長! 土方歳三!」

「なっ」

入るなり名前を叫ばれた男は顔をしかめた。
整った美しい顔が歪んで夢主を睨みつける。
しかし夢主は、土方の後ろに立つ男に目を奪われた。

「さ、斎藤…さん……」

夢主は引き寄せられるように一歩二歩と近付いた。
目を泳がせてフラフラ近付いてくるおかしな女に、斎藤は思わず抜刀した。
もちろん脅しのつもりだ。
所が、夢主は怯むどころか目を輝かせて切っ先に近付いた。

「わぁ、これって……有名な国重ですか! 模造刀……本物みたい」

無邪気に刃先を見つめる無用心な女に、斎藤は驚いた。
その女がまさかの行動に出た。
夢主が刃先に指を触れたのだ。
 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ