斎藤一京都夢物語 妾奉公・弐

□108.闇に消える狼
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「無事でなりよりだ。だが貴様・・・」

「井上・・・総司です」

「井上、いや誰でもいい。夢主の望む場所へならば、どこへでも連れて行ってやるんじゃなかったのか。臆したか!!何の為に俺のとっておきをお前にくれてやったと思ってやがる!お前に出来ないんなら、俺が夢主を送り届けてやる。貴様はお役御免だ」

「いえっ!!」

比古の言葉に立ち上がり、守るつもりが自分の迷いで夢主を縛り付けていたと気付かされた。
不甲斐ない自分に頭を振る。

「すみません夢主ちゃん・・・比古さん、僕が行きます。僕が夢主ちゃんと共に」

「総司さん・・・」

「ごめんね・・・あれだけ僕に任せろと啖呵を切っておいて、僕の迷いに夢主ちゃんの気持ちを巻き込んでいました」

「いえ・・・総司さんの土方さんへの気持ちは・・・」

一時を共に過ごしただけの自分が理解できるものではない。
夢主はその先を続けられなかった。
近藤の死を知り、次はと覚悟する。
土方の生き方を止められないならば死を止めることも出来ない。笑顔で会って最後の別れを言えるのか。

・・・それでも僕は土方さんが大好きだ、生きているなら、会いたい!・・・

「必ずお連れします!そして無事に戻りましょう」

「やれやれ・・・それでいい。望みを叶えてやれ」

・・・俺の弟子は手のかかる野郎ばかりだな・・・いや、沖田は弟子では無かったか・・・いずれにしろ、江戸に出てきて良かったか・・・

京を離れる気が無かった比古だが、風の噂に誘われた自分を良しとして薄すら微笑んだ。


仙台に行くと決まれば次は方法だ。
街道には敵、山には熊や狼、道も悪く食料にも困る。沖田一人ならなんとでもなるが、夢主が一緒では随分と勝手が違う。二人で山を抜けるならばそれなりの準備が要るだろう。

「船で行けばいい。箱館行きの商人か異人の交易船が横浜や江戸から出ているだろう。箱館行きなら仙台に寄航する。土方は京で噂の色男だったんだろう、だったら最後に一目会いたくてと女が訪ねても不思議じゃなかろう」

口を挟んだ比古の一言に二人は目を輝かせた。

「確かに・・・商船でなら仙台に入れるかも・・・」

「そうか・・・商人は物分かりがいい・・・お金を払えば安全は保障されるでしょう。仙台に潜むのは危険ですから海を渡る時期を考えなくては・・・土方さんが海を渡るのはいつですか」

「会津が降伏した後です。冬・・・雪の中を蝦夷に上陸していたので間違いありません」

「会津が降伏・・・そうですか。冬は船も荒れると思いますが大丈夫ですか」

「はい、平気です」

二人の話が纏まる様子に、比古は腕を組んで自分の出番は無しかと満足げ眺めた。
冬まで時間がある。商船と話をつけられるだろう。
仙台へ向けた二人の出立は会津降伏の報せが届いてからと決まった。
 
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