斎藤一京都夢物語 妾奉公・弐

□110.藤田五郎
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仙台藩から南へ下り江戸を目指す夢主と沖田は、山を横切る起伏ある細い道に苦労していた。

「少し休みましょうか」

「はい、ありがとうございます」

夢主の肩が大きく揺れている。二人は休息を取った。
歩き続ければ体温は上がるが山の空気は冷たく、整えようと何度も吐き出す息が白く広がっては消えていく。

もう少し南下すれば会津へ近付く道を選べる。
先を急ごうと言った夢主には告げずに通り過ぎるべきか、体を休めながら沖田は黙って考えていた。
その時、沖田は複数の男の声に反応して、夢主の体を木陰に隠した。

「総司さん・・・」

「しっ」

沖田に窘められ縮こまっていると、やがてはっきりと話し声が聞こえてきた。

「こんな所まで捜さなくてもいいだろうに面倒を押し付けやがって」

「あぁ、会津に戻りてぇな!あそこはいい」

「全くだ、男も女も好きに出来る」

「お前っ男もヤるのかよ」

「馬鹿野郎、男は殺すに決まってんだろう、因縁つけて最後はぶすっと串刺しだ、こいつは気持ちいい!ヤるのは女だけで充分だ」

「会津の女は堅気だからな、手篭めにする瞬間まで堪らねぇ!」

「犯してる間も強気だよな、必死に抵抗して泣き喚く姿にぞくぞくするぜ、さっさと終えて会津に戻るぞ!」

「あぁ、もう会津の鬼も捕まったみたいだしな、適当に脱走兵捜して戻るか」

「鬼?お前知らねぇのか、鬼じゃなくて狼だったんだよ」

「狼?」

「俺も聞いたぜ、恐ろしい金色の目の狼だろう、凄い数殺られたってよ」

「そんな怖ろしい獣がいるのかよ・・・」

「獣じゃねぇ、壬生の狼だったって話だぞ」

「壬生の?」

「あぁ、知ってるだろう、京の壬生狼だ、あいつら生きてやがったんだ」

「嘘っ・・・」

「誰だっ!!」

男達の会話に声を漏らしてしまった夢主は、沖田に押さえられ、咄嗟に姿勢を低くした。
下卑た会話に青ざめていたが、斎藤と思われる人物の話につい声が出てしまった。
まさか独り、山に籠もって戦っていたのか。

・・・しまった、こんな奴らに夢主ちゃんの姿を見せる訳には行かない、だが僕が出て行って後方から敵がやって来ないとも限らない、どうする・・・離れないのが得策か・・・

「確かに女の声だ!」

「あぁ、探せ!!」

男達が躍起になって声の主を探し始めた。
個々に動き始めて散り散りになるさまを見て、これならいけると沖田は動いた。

「夢主ちゃん、少し下ります」

囁いて伝え夢主の体に手を添えて、沖田は自分が戦いやすい場所まで移動した。

・・・もし下から来ても上からなら対応しやすい、ここで奴らを一人ずつ誘う・・・

「夢主ちゃん、怖かったら目を閉じて耳を塞いでください」

木が密集した場所にある地面のくぼみに夢主を隠し、僅かに木々が開けた場に立って沖田は姿を晒した。
顔を隠す衿巻きはつけたままだ。
 
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