斎藤一明治夢物語 妻奉公

□8.大きな蛍※R18
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家に戻ると照れ臭さからか、斎藤は無言で手を離して門を開けた。家に上がってからも黙って寝支度を始めた。
そんな珍しい姿を愛おしく感じながら夢主は一人二階へ上がり、着ていた着物を干して寝巻に着替えた。
玄関で灯した手燭の明かりが力強く感じるのは、今まで囲まれていた柔らかな蛍明かりのせいだろうか。

階段を降りて廊下の角を曲がるが、視界に入る寝間から明かりは漏れていない。
静かな寝間の障子を開くと、斎藤が既に寝床を整え、布団の上でごろりとくつろいでいた。
夢主が戻るのを待っていたのだ。
夫の穏やかな顔を確認し、手燭の明かりを消した。

「ありがとうございます、お布団・・・」

「構わんさ。ほら、来い」

すぅっと伸ばされた大きな手に従い夢主が手を添えると、途端に手を掴まれ引き寄せられた。

「わぁ・・・」

もたれかかるように倒れ、気が付けば斎藤の胸の中にいた。頬に触れる寝巻がさらりと気持ち良い。
日中手洗いし、外に干していた事を思い出した。

「もう、ビックリします・・・」

「フフン、悪かったな」

「さっきはあんなに可愛い顔してたのに」

「何だと」

「いえっ、何でもありません・・・ふふっ」

照れ姿を思い出してクスリと笑うが、あまり突っ込まないほうが良さそうだ。
夢主は軽く誤魔化して斎藤から目を逸らした。触れられている自分の体に目を移したのだ。
骨ばった手がゆっくり夢主の体をなぞっている。
手を繋ぐのは性に合わんとばかりに恥ずかしがっていた。
それが今は堂々と・・・。今度は夢主は恥ずかしげに顔を染めた。

「・・・あの、一さん・・・」

「散々あんな時間を過ごしたんだ。いいだろう」

「あんな時間・・・」

「あぁ。風流だったな」

斎藤は首を傾げた夢主を更に抱き寄せ、耳たぶに触れそうなほど近付いた唇で、鼓膜に響く低い声を聞かせた。

「甘くて・・・色気のある時間だ」

「はっ、一さんっ・・・」

「ククッ、そういう事だ」

「もうっ強引なんですから・・・」

驚いて硬直したのをいいことに、斎藤は一瞬で夢主を布団に押し倒していた。
上から見下ろされるのは嫌いではない・・・。夢主は自分の上、離れた場所にある顔を、もっと近付けて欲しいと望んで見つめていた。

「そんなにせがむなよ」

「えっ」

「そんな瞳をするようになるとはな、嬉しい限りだ」

「違うんですからっ」

「分かった分かった、そうだな、違うな」

愉しそうに妻を宥めて、斎藤はその体を愛し始めた。
もうお構いなしだ、意地悪な瞳で笑っている。
微かに抵抗していた夢主の手から力が抜け、すぐに斎藤から与えられる刺激と快楽に満たされていく。

体をよじらせて時折薄目で見る夫の瞳は、強く揺らめいていた。
蛍火などと呼べるものではない、熱い光が輝いては影を見せ、ゆらゆらと夢主を魅了した。

・・・凄ぃ・・・一さん・・・月明かりも無いのに・・・綺麗・・・

斎藤の中の熱が瞳を輝かせているのか、夢主は再び目を閉じて感覚を失っていった。

どれ程の間二人は愛し合っていたのか、斎藤が夢主の横に体を移して落ち着く頃には、時の感覚さえも失っていた。
ただ頭からすっと滑り髪をそっと辿る掌を温かく感じた。
夢主はそのまま目を閉じて眠りに落ちていった。
 
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