斎藤一明治夢物語 妻奉公

□11.心配性な人
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斎藤が珍しく発熱を自覚して仕事を切り上げた日、夢主が泥濘の中を歩いて入手した薬を大人しく飲み、粥も拒まず胃に通し、言われるままに眠った。

夢主の看病が効いたのか薬が効いたのか、翌朝にはすっかりいつもの調子を取り戻していた。
元々たいした不調では無かったと斎藤は感じていたが、口には出さなかった。夢主にまた拗ねられては堪らない。
拗ねた顔もたまには良いが、昨日はさすがに懲りたと、今朝はご機嫌な妻の顔を眺めている。

しかし、ふふっと微笑む妻だが、斎藤は僅かな違和感を覚え、傍に呼び寄せた。
忙しく動き回っていた夢主は、素直に手を止め腰を落とした。

「なんでしょうか、一さん」

「夢主、お前」

斎藤は夢主の前髪を除けて大きな手を額に乗せた。夢主は驚いて緊張を見せる。
やがて夫は目の前で大きく息を吐いて手を離し、夢主の緊張も解けた。

「今朝はお前が熱があるんじゃないか」

「私ですか」

「あぁ。少し息苦しそうじゃないか、呼吸が荒い。額も少し熱いぞ」

「言われたら・・・でも別に辛くは・・・昨日の一さんと同じです。別に心配なさる程じゃありませんよ」

にこりと首を傾げるが、夢主の愛らしい口から吐き出された息を指先で感じ、斎藤は眉を寄せた。
普段よりも息が熱い。

「俺は大人しく寝たぞ。お前も寝ていろ。俺は行かねばならんが大丈夫か」

「はい、そんなたいした熱じゃ・・・」

「寝ていろよ、いいな」

俺はお前の言う事を聞いたんだから今度はお前が俺に従う番だと、斎藤はきつく言いつけた。
昨日は少し強引に斎藤を布団に押し込めた夢主。
立場が反転し、強く言われるのも仕方が無しと、小さく笑って頷いた。
襷をしゅるりと外して小さく纏める。

「今日は総司さんのお稽古があるんですよ。私いつもお手伝いに行っているんですけど・・・」

「仕事に行くついでに断りを入れておくから、お前は気にするな」

「すみません、お手数お掛けします」

出来ればそばに居てやりたいが叶わず申し訳ない、そんな本心をらしからぬ表情にして見せる姿に、夢主は愛おしさを感じた。

「いいから布団に入ってろ。薬は・・・俺の残りを飲んでおけ」

自分が家にいる間に何か出来る事は無いかと部屋を見回す斎藤に、またもクスクス笑いが込み上げてきた。
夢主は頷いて襷を置き、寝巻に手を掛けた。

「お隣で着替えてきますね」

「ちゃんと大人しくしているか、途中で様子を見るように沖田君に伝えておく」

「えっ、総司さんもお忙しいのに大丈夫でしょうか・・・」

「あいつは暇を持て余しているくらいだ。気にするな。それに彼にしか頼めんが、彼になら頼める」

「ふふっ、わかりました」

いつもの一さんの心配性、と夢主は受け入れ、着替え終えると布団に潜り込んだ。

「ヤツには鍵を渡しておくからな、驚くなよ」

「はい。思えば総司さんが来るのって初めてですよね。それに・・・なんだろう、久しぶりって感じがします」

部屋から出ようと立ち上がった斎藤だが、話に引きとめられ、夢主の傍まで戻ってきた。

「久しぶりか、確かにそうだな。布団を並べたとは今思い出してもおぞましい」

「ふふっ、一さんたら酷いです」

「フン、男と布団を並べたがるものか。お前がいなけりゃ追い出してたさ」

斎藤は苦い顔をして、夢主が自分で掛けた布団を更に引き上げた。

「ちゃんと寝ていろよ」

「わかってますよ・・・一さんはお仕事お気をつけて。今日は中でお仕事されるんですか」

「まぁな。今日も内勤だろう」

「不満そう」

「フッ、退屈さ。たまには外に出るがな。行ってくる」

離れようとする斎藤、制服を掴む手に引かれ、振り返って見えた顔に望みを察し、「やれやれ」と呟いてからそっと口を吸った。

「そのまま目を閉じて、寝ろ」

「はぃ」

出て行く夫を見届けてから、夢主は布団に顔を隠して目を閉じた。
 
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