斎藤一明治夢物語 妻奉公

□37.不安の導き※R18
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宗次郎が尖閣と雑兵達を新月村に送り込んで制圧したのは、各地で士族が暴発したのと同時期。
方治が策略を巡らせ、各地で反乱を勃発させるのに合わせて行動を起こしていた。

この頃、落ち葉が舞い始めた東京でもひとつの事件が起きた。
二年前の佐賀の乱と同様、騒乱の各地へ多くの密偵や腕の立つ警官が派遣され、東京府は平時より手薄になっている。
それを見越してなのか、他の乱と同じく誰かが裏で糸を引いたのか、真相は分からないが事件は起きた。

市民からの通報で、斎藤は現場へ向かうよう指示を受けた。
何やら士族が集まって不審な動きを見せているらしい。
熊本、福岡、山口と騒乱が立て続けに起き、市民も敏感になっていた。
平穏な日常をこれ以上壊されたくはない。不穏な空気を察した町の人間が警視庁へ駆け込んでいた。

斎藤は署内にいた警官を数名連れて走った。いずれも目を付けていた警官達だ。実戦で使えるだろう。
通報された場所は警視庁から走って五分、ほど近い川だ。

走っていくと橋が見えてきた。川の向こう岸、橋の下に男達が集まっている。
川岸に繋がれた舟に乗り込もうとしているのか、腰を屈めて作業する男達。舟は屋形船のように身が隠せる屋根と壁がついている。
既に船内に乗り込んだ者もいるらしく、船が重そうにゆっくり揺れていた。

一、二、三・・・斎藤は走りながら見えてきた男達を数えた。
見えるだけで十人、船内に数人か。斎藤が把握した時、男達も駆けてくる警官に気付き慌てて作業を止めた。
岸にいた数名が何やら叫びながら逃げ出した。再び落ち合う場所を約束して散り散りに逃げる作戦か、四方八方に走っていく。

「ちっ、西と東に分かれて追え、単独行動と深追いはするな!三島、お前は俺と残れ!」

橋を渡りながら連れてきた警官達を指示し、一人を残して後を追わせた。

残した男は最近警視庁に着任したばかりの男、三島栄一郎だ。斎藤は密偵の部下としてこの男に目を付けている。
まだこの手の仕事には深く関わっていないが真面目でよく動き、上が目を付けている人物、そう紹介された。
そばで仕事を見る限りそれは事実で、寡黙に忠実に仕事をこなす。密偵に向いた性格だ。

今回の事件は現場での能力を見るよい機会になる。
幸いにも首謀者らしき男は船内に残っている。捕らえて話を訊き出せば逃げた男達も捕縛出来るはずだ。

「出てこい」

斎藤が船室に向かって凄むと、入口にぬっと人影が現れた。
 
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