斎藤一明治夢物語 妻奉公

□51.お前の中に映るもの
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向かい合う緋村と左之助が何かを話している。見る者に声は届かない。それでも一方的な喧嘩だと見て取れる。
やがて左之助が抱えていた斬馬刀の包みを解いた。

「ほぅ、でかいな」

見ていた斎藤も呟くほど巨大な武器を左之助は担いだ。

一方で夢主は激闘が始まると見ていられずに、その場でしゃがみ込んでしまった。
視界が下がり河原は見えなくなる。しかし落ち着くどころか、心拍数は上がっていった。
そんな時、乾いた音がひとつ響いた。
ほぼ同時に辺りを引き裂く悲鳴は薫の声か、男達の雄叫びも響いた。

夢主は深い呼吸をして動悸を抑えようとした。
大丈夫、これは隠れていた比留間喜兵衛が発砲した音。剣心がしっかり対応してくれる。
剣心も左之助も、そばにいる薫や弥彦だって無事に終わる。
無事に終わるんだから・・・

みんなのそばへ近寄れず離れることも出来ずに体を小さくする夢主。
その後も破壊音や叫び声が何度も耳に入った。
本当に騒ぎは収まるのだろうか。
薫や弥彦が怪我をしていないか、確かめたいが万一剣心や左之助の気が逸れてしまっては大変だ。
暫く固まっていると全てが終わったのか、やがて何も聞こえなくなった。

「終わっ・・・た・・・」

そっと立ち上がってみれば足がガクガク震えておぼつかない。
上手く足が運ばず、河原を確認する前に同じく遠巻きに見ていた人物に見つかった。
随分離れているがあの立ち姿は間違いない、斎藤が怖い顔で睨んでいる。

「一さん・・・」

心配いらんからお前はさっさと行け、そんな気迫が伝わってくる。
逃げ出したいが動けずに立ち尽くしていると真っ直ぐこちらへやって来た。

「破落戸の喧嘩など物見してもいい事はありませんよ、お嬢さん」

「一さ・・・お巡りさん」

「フン。安全な場所へ行きなさい」

「あっ、あの」

市中で出会った時の対応は冗談じみて聞こえるが斎藤は至って真面目だ。強張った体が他人行儀な態度にビクリと反応した。
傍から見れば警官と怯える娘の奇妙な二人。斎藤は辺りを見回してから、お前を怒っている訳じゃないと態度を和らげた。

「全くお前は・・・夜一度家に戻るから大人しくしていろ」

背中をポンと押されると、夢主は金縛りが解けたように力が抜けた。
小さく会釈して歩きだすが斎藤はこの場に留まるらしく動かない。
少し進んで振り返ると、見送る斎藤が大きく頷いた。
ここは大丈夫だと合図しているのだろう。

夢主は大人しく赤べこで仕事をこなし、帰宅後は夜になり斎藤が戻るのを待った。

河原はあれからどうなったのか、剣心と左之助の怪我の状態、比留間兄弟の処分、それに斎藤は怒っていないか・・・。
不安で食事も風呂も済ませられず待っていた夢主は、玄関戸が開くとすぐさま飛び出していった。
斎藤はまた出て行くのか制服を脱ぐ気配がない。

「すぐに出られるんですか」

「あぁ」

対話の為にわざわざ帰ってくれた。
夢主は嬉しさ半分、申し訳なさ半分で出迎えた。
 
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