斎藤一明治夢物語 妻奉公

□57.宿すもの、宿る者
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夜が深まり人もなく静まり返った町の外れ、巨大な洋館では激しい戦闘が起きていた。
恵を連れ戻しに来た剣心達を武田観柳の周囲で働く蒼紫達が迎え撃つ。

時が過ぎ戦闘が進み、次第に闘いの構図は変わっていった。
戦闘行為を御庭番衆や私兵団に任せていた観柳が自ら武器を持ち出し、標的を闘う男達全てに変えた。御庭番衆を仇なす存在として見限ったのだ。

そんな激しい戦闘の地から離れた屋敷で夢主は寝付けずにいた。
眠れぬ体を持て余し、幾度も寝返りを打つ。
月の目立たぬ今宵、障子に映る沖田の影は薄く、星空をじっと眺めているのか微動だにしない。
夢主がごそごそ動く気配を察しているはずがだ、中を覗く素振りもなかった。

・・・もしかして、寝てるのかな・・・

座ったまま浅い眠りに入っているのか。
久しく見ていない沖田の寝顔。
女顔負けの優しい顔立ちで、目を瞑ると何とも可愛らしい顔になる。

「覗いちゃお・・・」

どうせ寝付けないのだ、愛らしい寝顔を覗いてみよう。もし起きていたら話すのもいい。
寝ていれば起こさぬよう、起きていれば驚かそうと、夢主は障子に忍び寄った。
外に出るとやはり寝顔が見えた。

・・・わぁっ、やっぱり可愛い・・・

家では日本刀を持っていようが咎めは受けない。
眠る沖田は新選組時代に愛用した武蔵国の刀を抱えて眠っていた。

・・・起こしちゃ悪いな・・・

布団に戻った夢主は沖田につられるよう眠りに落ちていった。
そのまま深い眠りは長く続くと思われたが、空が薄っすら白らみ始めた頃、何かを感じたのか突然目が覚めた。
覚醒した意識、しかし落ち着かない気分だ。

部屋の外に出ると相変わらず沖田が座っているが、先刻と様子が異なる。ギンと開いた目で瞬きもせず息を殺している。

「下がって、夢主ちゃん」

何が起きたのか、沖田の迫力に夢主は腰が抜けそうだ。
庭に目を向けると屋根の影が朝日により浮かび上がっている。
だかどこか奇妙だ。

沖田は庭に飛び下りて屋根を見上げ、目を見開いた。

「総司さん・・・どうしたんですか・・・」

「来ちゃいけない!」

「え・・・」

只ならぬ表情に驚くが、視線の先に何かあると分かれば確かめたくなるのが人情だ。
固まる沖田の隣に出て屋根を見上げた夢主、

「っ、きゃああぁあ」

叫んで腰を抜かした。

屋根の上で昇る朝日を背に立つ男がいる。
光を背負って立つ男の表情は影が差して分からない。
それでも四乃森蒼紫であることだけは、はっきり分かった。

両手に大きな何かを掴んでいる。
それが死んだ御庭番衆四人の首と悟り、夢主は腰を抜かした。
彼らが絶命した町外れからここまで、時間を掛けたのか追跡されぬよう抜いたのか、斬られた首から血は滴っていなかった。

「ぁあ・・・あお、蒼紫・・・様・・・」

「・・・壬生狼の女」

顔に影がかかって見えなくとも、強い感情で睨まれていることが分かる。
へたり込んだ夢主は更なる恐怖を感じた。

「お前は知っていたのか。こうなる事を、この四人の死も、全てを」

「ぁ・・・ぁあ・・・」

凄まじい殺気で金縛りにあう。
軽くはない生首四つを手にして屋根の上で微動だにしない男。余りの気迫に沖田ですら言葉を失っていた。
 
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