斎藤一明治夢物語 妻奉公

□58.微熱な心地
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それから一週間。子を宿したと自覚してからの日々。
初めての経験で何事にも慎重に構えてしまう。
どんな変化が起こるのか案ずるが少し不調を感じる程度で日常生活にこれといった支障は無かった。

負担を感じぬ程度に体は動かしたい。
日中は家中の戸を開け放ち、新鮮な空気を部屋に取り込む。
掃除をして食事を作る。可能な限り今までと同じ暮らしを心がけた。

しかし夜は一人で過ごすには不安がある。
恵に教わった三ヶ月の期間、そこまでは沖田の屋敷で眠ることになった。
いずれ一人の家で子供を育てなければならないのだ。
慣れる為にも甘え続けるわけにはいかない。

「眠れますか」

「総司さん・・・はい、昼間も寝てたくせに、眠いんです」

元々寝坊助な性格だが、輪をかけたように眠る時間が増えていた。
自宅で眠り込んでしまうこともあれば、沖田の居室で寝てしまうこともあった。

「ははっ、きっと命を育んでいるからでしょうね」

優しい言葉に頬が緩む。
あれから斎藤は帰っていない。
会えば伝えたくなってしまうだろうから、顔を見ないのが良いかもしれない。
それでも寂しさは感じていた。

「明日、久しぶりに赤べこに行ってみようと思うんです」

「働くんですか」

「いいえ・・・でもみんなの顔が見たくて」

「いいですね、僕も付き添いますよ」

「でもお稽古が・・・」

「そっか、昼下がりで良ければ僕も」

「大丈夫です。慣れた道ですし一人で行ってみます。何事も挑戦ですから」

寂しさを紛らわせようとして思い付いた赤べこ行き。
これから一人で出かける機会は必ず訪れる。怖いのは初めだけ。
翌日、心配する沖田に見送られ一人赤べこを訪れた。
 
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