斎藤一明治夢物語 妻奉公

人誅編5・命
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斎藤の中にある幕末から続く思念。
緋村抜刀斎に対する思い。
雪代縁の件が一段落して警視庁に戻った斎藤は、冷たい夜風を浴びながら一晩その存在と向きあった。
翌朝、斎藤は夢主の顔を見に家へ戻った。

斎藤は自身について特に何かを告げるでもなく、無事に任務を終えたと話す。
どこかいつもと異なる面持ちをしていた。

「本当にお疲れ様でした。大きな問題が解決しましたね」

「あぁ。瀬戸際で防げたのはでかいな」

良かったと述べる声に張りがない。
夢主は斎藤の中で解決せずにいる思いを察した。

「そうだ、怪我は大丈夫ですか。恵さんに手当てしていただきましたか」

「恵、高荷恵か。いや、応急処置は自分で、あとは船にいる警察医に任せた」

「恵さんに頼まなかったんですか」

「必要ないからな」

「意地っ張りなんですから」

労いと安堵で夢主が抱きつくと、斎藤はきつく回された腕に手を添えた。
いつもと異なった面持ちは崩れ、フッと小さな笑みが見える。

「腹を潰すなよ」

「はぃ。……一さん、凄いです……」

「何が凄いんだか」

葛藤を抱えても己の任から逸れず、信じた正義を貫く姿。渦巻く思いに囚われない心の強さ。
ククッと喉をならす斎藤に、夢主は凄いですと繰り返した。

「暫くはゆっくり出来そうですか」

「ん、そうだな」

実は雪代縁の組織が日本で行った取引を追ううち、他にも国内で不穏な動きがあると判明した。
今後の任務はそれらの特定だ。
個人か組織か、大元を特定して場合によっては殲滅に掛かる。またも遠出になるかもしれない。
今は告げる話ではないか。斎藤は安心しろと柔らかな眼差しを向けた。

「少なくとも、お前のお産が済むまでは傍にいるさ」

「ありがとうございます、心強いです」

にこりと見えた夢主の微笑みに、斎藤はこれでいいと頷いた。
その頷きで夢主の微笑みが更に輝く。
自分と話すことで斎藤の硬い表情が和らぐのが嬉しかった。

今でも斎藤の抜刀斎への思いは完全に消えていないはず。
剣心から呼び出しの手紙を受け取って初めて、想いに区切りが付くのだろう。
手紙が届くのはもう少し先のこと。

「緋村さんは薫さんと京都までお墓参りだそうですね」

「呑気なもんだ」

「ふふっ、一さんたら」

事件を解決したその足で京都へ向かった二人。
剣心の中で巴への気持ちの整理がついたから実現したのかもしれない。
斎藤から見れば呑気な行動も、夢主から見れば愛おしい行動だった。

「もしあの二人にお子さんが出来たら、勉さんとお友達になるかもしれませんね」

ふふっと笑う夢主に、斎藤は勘弁してくれと渋い顔を見せた。
宿敵の子と我が子が竹馬の友に。
考えたくも無いと否定した直後に脳裏に響いたのは、まだ見ぬ勉が成長し、友と笑い合う声だった。

「そうはならんだろう」

言葉にしてみるが、笑い声は消えずに斎藤の中で響いている。
親は元宿敵同士でも、時代が変わり、子供達に絆が生まれてもおかしくない。

……それもこれも、俺が奴を討てば失せる未来……

斎藤は離れた夢主の体を引き戻して、抱きしめた。
 
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