斎藤一京都夢物語 妾奉公

□1.混乱の時代へ
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「証拠がねぇだろうが!」

「さすがに時代を飛び越えるとか、わけ分かんねぇな」

「かばってやりてぇが、ちょっと厳しい言い訳だぜ」

取り巻く男達からは様々な声が聞こえる。
力になりたい者も戸惑う者も本音を溢した。

「しょ、証拠は・・・何も無いけど・・・でも、そうっ、い、今は何年でしょうか、文久、元治」

病で倒れているはずの沖田が元気という事はまだ慶応ではないのだろう。
だが続けた。

「・・・慶応」

夢主から飛び出した元号らしき言葉の数々に土方は目を細くした。

「・・・文久だ。文久三年」

三年。
夢主は懸命に新選組と幕末の歴史を思い返した。
文久三年、彼らが故郷の日野や江戸を出て京に入って間もない頃だろう。

「三年なら・・・まだ芹沢さんが」

「芹沢局長か。確かにいるぜ。向こうの八木邸にいるがな、面倒だから会わせはしない」

芹沢は土方とは違った意味で恐ろしい男という認識があった夢主。
少しだけほっと安堵の息を吐いた。そして自分を落ち着かせる為にもう一度大きな息を吐いた。

「貴方がたは・・・間もなく会津藩主、松平容保公より新しい隊名を頂戴すると思います」

神妙な面持ちで語りだした夢主に、土方が僅かに身を乗り出した。
真偽はさておき興味を持って話を聞いている。

「新選組・・・貴方がたは新選組の名を頂戴します。そして新選組の名のもとに誠の旗を手に、皆で心をひとつに大義を成す日がやってきます・・・」

そんな話をでっちあげて、この女に何の得があるのだろうか。
土方は夢主の目を見つめて暫く思索した。
沖田はこれ以上どうやって助けてあげれば良いか分からず戸惑っていた。策を練るのは苦手である。

「土方さん」

一番後ろに座る斎藤が不意に声を発した。
今まで口を閉じ、状況の把握に努めていたが何らかの判断を下したのだ。

「この女の着物、確かに我々の知る物とは違います。言ってる事もちぐはぐだ。だがこの女に間者としての賢さはこれっぽっちも感じません。これに関しては沖田君も同意見でしょう」

「あ、えぇ・・・あっ、確かに・・・えっと・・・?」

「それに身に付ける装束の珍しさ。金持ちが遊びで手に入れた異国の品かもしれません。万一にも、どこぞの名のある家の子女であったならば、ぞんざいに扱えば面倒な事になり兼ねません・・・」

土方は顎を触る指を二、三度動かした。
確かにその通りだ。

一方助けられたとは言え、大好きな斎藤に貶され沖田に同意されて、夢主は落ち込んでいた。
 
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