斎藤一京都夢物語 妾奉公

□3.ここに来た意味
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夢主はどうしてこの時代に、この世界にやってきたのか全く分からなかった。
それでも、この痛みや悲しみは本物だと確信した。
この時代で、この世界で生き抜いていかねばならないのだ。
目の前にいる男達は懸命に新しい時代を築こうと命を掛けている。そんな彼らの支えに、少しでもなれるならば。

夢主は覚悟を決めた。
諦めたわけではなかった。近藤の存在も頼みの綱だ。
今まで見聞きした記憶の中の新選組の面々と、ここで出会った彼らでは印象が異なる者もいる。
実際に自分の目で、体で確かめようと思ったのだ。
誰が力になってくれるのか、助けになってくれるのか、それも知りたかった。

それに時代に散っていく命をもし救えるのなら・・・
そう思い、つと沖田を見た。

・・・何か一つを変えるだけで、私の知っている歴史や世界が変わってしまうかもしれない・・・

それでも自分なりに出来る事をしてみようと心に決めた。
目の前のみんなの力になりたい。

「私の・・・」

小さく口を開いた夢主を斎藤も沖田も見つめた。
弱々しく絞り出される声を聞き逃さぬよう、耳を傾けている。

「私の知っている・・・私のいた時代の日本は・・・とても平和なんです。確かに困った政もあるけれど・・・誰もが助け合って、日常で命の危険を感じる事もなく、幸せに暮らしていました」

自分達が知らない時代の明るい話。
静かに語る夢主を見つめる二人の顔が少しだけ晴れた。

「みなさんが・・・命を懸けて、新時代を築いて下さったからなんですね・・・」

夢主は二人に微笑みかけた。
時代を守ろうと命を懸け、どんな厳しくとも諦めず、新たな時代を築く礎になる二人を。

「私、この時代で何が出来るか分からないけど、みなさんの事、見守っていても・・・いいでしょうか。お力になれるなら・・・私・・・」

涙が込み上げてきた夢主は顔を伏せて目を隠した。

「私、頑張りますね」

目を閉じて涙を抑え込み、顔を上げてにこりと静か微笑んだ。
美しいが、斎藤と沖田には痛々しい笑顔だった。
 
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