斎藤一京都夢物語 妾奉公
□4.妾奉公 ※R18
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冷えた客間から出て、幹部の部屋が並ぶ廊下へ進んだ。
あった。
確かに一室だけ明りが灯っている。間違いなく土方の部屋だ。
温かい行灯明かりが障子越しに揺らめいている。だがそこに待つのは夢主の望む温かさとは程遠い残酷な時間。
僅かな距離を引き伸ばすように歩む足はゆっくりで、足に伝わる廊下の感触は硬く、夜の板張りはキンと冷えて痛かった。
辿り着いた障子の前で夢主は腰を落として膝を付いた。無礼のないよう尽くそうと精一杯作法を思い出す。
「土方さん、夢主です。ただいま・・・参りました・・・」
反応が無い。
戸惑い、二度目の挨拶をすべきか迷っていると、少しの沈黙の後に返事が聞こえた。
「入れ」
夢主は恐る恐る障子を開けて、にじり寄った。
失礼が無いよう注意を払い、障子を閉めて土方に向き直る。
「・・・」
部屋の中では土方が小さな机に向かい座っていた。
真面目な顔で何やら書き留めている。
夢主は声を掛けて良いか分からず、気まずい思いのまま口を閉じていた。
やがて机に向かっていた土方は筆を置いて姿勢を変えた。
「良く来たな。逃げるんじゃねぇかと少し疑ってたぜ。まぁそうしたら遠慮なくぶった斬れたんだけどな」
心なしか、昼間よりも落ち着いた様子だ。
声の調子も明るく好意的。表情もどこか柔らかい。
「逃げたりはしません。どうしてこの場に来てしまったのか・・・私にも分かりません。でも、何か理由があるのかもしれないから・・・。私、逃げないです」
真っ直ぐ土方を見つめ視線を合わせると、それに気をよくして土方はフッと顔を緩めた。
「いい心がけじゃねぇか」
笑った目元に恥ずかしさを覚え、夢主は顏を伏せた。
確かに綺麗な顔立ちの色男だ。こんな薄明かりの中で優しく微笑まれたら、どんな女もドキリとするだろう。
不覚にも、夢主もそれを認めてしまった。胸が勝手に高鳴っている。
そんな素直な反応に気を良くしたのか、土方が近付いて来た。