斎藤一京都夢物語 妾奉公

□5.美味しいおにぎり
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外に出たものの、どこへ行くかは決めていない。
「どうするか」と呟けばすぐさま沖田の笑顔が戻ってきた。

「じゃあ、僕のいつもの甘味処でいいかな!」

気持ちを切り替えたのか、ふんふんと鼻歌交じりに沖田が先導を始めた。
斎藤は甘いものは得意ではないが、この際どこでも良かった。茶だけでも啜って、話さえ出来れば良い。

「おばちゃん、いつものお団子!あと美味しいお茶もね、一つずつ二人分お願いします!」

沖田は店に着くなり慣れた調子で店の奥に向かって注文をした。もちろん、団子は沖田が一人で二人分を食べるつもりだ。

店先の竹縁台に腰を下ろすと、すぐに店内から団子と茶が運ばれてきた。
沖田はさっそく竹串を手に団子を頬張りながら愚痴り始める。斎藤は黙って湯呑を手に取った。

「全く土方さんは、らしくないよなぁ!いつもなら女の人に固執したり、これっぽっちもないのに。酷いですよね」

他人事のように話しているが、実の所はらわたが煮えくり返っている。
沖田自身もその理由には薄々気が付いていた。
咄嗟の勢いで身を引き受けると言ったのだが、事実夢主の存在をかなり気に掛けていたのだ。

愛らしい娘さん・・・それくらいに思ったのだが、口にした途端本当に自分の嫁になる娘のように感じてしまった。言葉とは恐ろしい。
そして、普段女に固執しない土方も夢主に特別な感情を抱いてみえる。
それが分かって尚更苛ついたのだ。

「女の人にはもてる癖に、なんでよりによって夢主さんに・・・」

沖田は独り言を溢した。
斎藤も二人の男の思惑は分かっていた。
そして思った以上に自らも心を動かされていると気付いている。

「恐ろしい女だな・・・」

斎藤も静かに独り言ちた。
 
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