斎藤一京都夢物語 妾奉公
□5.美味しいおにぎり
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「「ぁ・・・」」
揃って声が出た。
「ご、ごめんなさい、僕・・・」
「いぇ、大丈夫です。沖田さんのお心遣いに・・・とっても救われていますから・・・」
穏やかに笑って沖田を見た。
眉毛をハの字に寄せる表情は心から申し訳ないと訴えている。
どうすれば夢主に笑ってもらえるのか、穏やかな気持ちに戻ってもらえるのかと、苦手な頭を使って真摯に考えていた。
「・・・正直・・・とっても・・・辛かったです・・・」
真っ直ぐな沖田を前に、夢主はぽつりぽつりと語りだした。
話せば気持ちが軽くなると思ったのだ。抱えていたら潰れてしまいそうだった。
言葉につられて涙も溢れてきた。
「夢主さん・・・」
沖田はそっと近付いて優しく背中に手を回した。無理強いをせぬよう、引き寄せる。
出来る事はこれくらいしか思い浮かばない。沖田はただ純粋に夢主を案じていた。
「沢山泣いてください・・・僕の胸で良ければいつでも」
小さく震える背中を撫でながら言った。
暖かい腕で小さな体を抱え、ただそうして夢主が落ち着くのを待った。
暫くの間、沖田の胸の中でくぐもった泣き声が続いた。
泣いて泣いて、それでも四半刻も経たないうちに夢主は落ち着きを取り戻し、ゆっくりと濡れた顔を上げた。
「ごめんなっ・・・さい、沖田さんの・・・寝巻が濡れちゃっ・・・」
しゃくり上げながら謝る姿は幼子のよう。
辛く悲しみの涙を流しながらも目の前の者を気遣うとは、何と優しい人なのか。沖田は感心した。心を動かされる優しさだ。
「ふふっ、気にしないで夢主さん」
濡れた寝巻より、戻ってきた笑顔が嬉しい。
夢主の気を紛らわせようと寄り添って背を摩りながら、何か良い話題が無いか考えた。
「ねぇ、君のいた時代の話を聞かせてよ」
思い付きだった。
他意はなく、話題にちょうど良いだろうと面白半分に聞いたのだ。
「僕の面白い話とか、残ってませんか」
沖田の話と考えて、夢主は一番に労咳の話を思い出してしまった。
志半ば、病に倒れた悲運の剣客。
「沖田さんは・・・浅黒い色のヒラメ顔の大男って言われてましたよ」
「えぇーーー!」
病の話を隠す為に選んだ愉快な話題、まさかの言い伝えを当の本人は驚いた。
「ヒラメって?!!ヒラメー??」
「はぃ、目が離れて平らな顔だとか・・・ふふっ」
期待以上の反応に笑いが込み上げてくる。
ヒラメは無いだろうと自らの頬を触っている。男にしては白く滑らかで柔らかそうな頬。言われるならば優男が妥当な愛らしさだ。
あまりに衝撃を受けているので、容姿にまつわる別の話も教えることにした。
「でも、色白で小柄な美青年っていう説も残っていましたよ!こちらの方が通説でした。とっても優しくて、敵ですら沖田さんを悪く言う人はいなかったって」
「美青年か!いいですねぇ、やっぱり誉められるほうがいいなぁ!!」
夢主も後者の噂が好きだ。
二人揃ってにこにこと頷いた。
自らの話を喜んでくれる沖田をもっと笑顔にしたい。夢主は他に伝えられる話は無いか首をひねった。
「新選組で一番二番の腕前だって剣術の凄さも伝わっていました」
その言葉には、おや?と反応が返ってきた。
「一番二番なんだ。ねぇ、誰と並べられてたの?」