斎藤一京都夢物語 妾奉公

□6.副長助勤方
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その時、斎藤に弾かれた木刀の一本が夢主目掛けて飛んできた。
物凄い勢いで回転しながら飛んでくる。
誰もが感情的に打ち合っていたので、殺気もなく見ているだけの夢主に全く気付いていなかった。

「危ない!!」

間に合わない、当たる!

誰もがそう思った瞬間、

「たぁっ!!」

すぐ隣で誰かが飛んでくる木刀を力強く叩き落とした。

土方だった。その手には男達と同じ木刀が握られていた。

ガラガランと大きな音を立てて落ちた木刀が、まだ回っている。
実は遅れてきた土方は気配を消して、道場の隅で乱稽古に紛れ斎藤から一本を奪う好機を探っていたのだ。
夢主は横にいながら全く土方に気付いていなかった。

「ぁ・・・」

「こんな所で何してやがる!!」

「ごめんなさぃ・・・あたし・・・」

僕が見に来るのを誘ったのだと沖田が弁明しようとするが、土方は口を挟む隙を与えずに続けた。

「さっさと部屋に戻りやがれ!!」

「はぃ、すみません・・・」

夢主は小声で謝ると皆に頭を下げ、小走りで出て行った。
土方に会うのはあの夜以来。傍にいるのが気まずかった。

土方は道場内の面々を見回した後、木刀を肩に担いで夢主を追って出た。
また良からぬ事をするのでは。皆が追おうとするが、理由はすぐに判明した。
平隊士が集まる時間なのだ。
さっさと夢主を追いやって、更にやって来るであろう芹沢達からも隠そうと考えたのだ。

後に続いた土方は、夢主の向かう方角が客間では無く疑問に首を傾げた。

「斎藤の部屋か」

「ひゃっ!」

土方がついて来ているとは知らず、背後から声がして驚いた。
肩越しに感じる存在に体が熱くなる。そして恐怖を思い出した。

「昼間は客間にいる、って総司に聞いたんたが」

「さ、斎藤さんが、面倒だから、・・・夜まで、もぅ・・・ここにいろって・・・」

逃げるように振り向いた夢主は、青ざめた顔で答えた。

・・・夜まで・・・

そう聞いて土方は眉間に皺を寄せた。
加えて、夢主が自分に対しこうも怯えるのかと溜息を吐いた。

そもそも自分の発言と行動が原因なのだが。
土方は幹部達が夢主に手を出さないと示し合わせた密約を知っていた。
だから永倉が実際ことに及んでしまったのは予想外だった。

何より、自分自身そのつもりはなかったのだ。
少し懲らしめてやろうと策を講じただけ。
しかし、いざ向かい合うと堪えきれず、夢主を抱いてしまったのだとは、誰にも言えなかった。

脆く壊れそうな女。壊れそうな顔をしている癖に、逃げずに自らの立場と向き合おうとした強い女。
美しい肌や髪は触れたい衝動を起こし、薄灯りの中で恥じらいに染まり涙を浮かべるさまは劣情を誘った。

怯える夢主を見ると土方は自分を責めずにはいられなかった。
尚更、永倉を責められなかった。
そして続く斎藤や原田、藤堂の事が気掛かりであった。
 
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